土を掘り返す音がする。花火が打ちあがる音がする。風船の割れる音がする。これら全ての音を出している人物はなんてことはない、普通の人であった。
とある村の住人である彼は一体どういった経緯があったのかは一切不明だが、ファイターとして選ばれたらしい。だからつい最近までキーラの手中に落ちていた。助けだしたのはいいものの、強いのかと問われると、そもそも戦いの心得はあるのかと疑問の方が先に浮かぶ。
この疑問を解消すべく、村人の実力を見てみたいと申し出たのは若。スピリットである若は実際に戦うことは出来ないにしろ、戦いのイロハぐらいは手合わせしなくても見ればある程度測定できる。ということで村人の攻撃手段を見せてもらっているわけだが、言葉を濁さないで伝えるとすれば“イロモノ”である。
使用しているものがスコップ、打ち上げ花火、風船など、よくそれを武器にしようと思ったものだと呆れのような感心のような、一言で表せない感情を抱いた。こんな具合で次々に村人にしか扱えないと思えるような道具の数々を見ていく中で、ある物が若の興味をえらく引いた。
ハニワである。目と口がくり抜かれただけという簡素な顔で、それ以上の特徴なんて上げようがないほどの道具を使い、村人はあろうことかロケットのように発射し、ハニワに乗って移動するという荒技をやってのけた。
ミサイルランチャーから撃ちだされた誘導弾を乗り回したことのある若にとって、村人がやってみせた芸当は親近感の沸くものだったらしい。だからか、村人にこんなお願いをした。
「俺にも乗らせてくれよ」
無理だと断られるかと思えば、まさかの二つ返事で迷うこともなくハニワを準備してくれた。村人が発射準備を済ませ、打ちだす合図を送る。
従来のハニワを知っている者からすればハニワがロケットミサイルのように飛んでいくなど、常識と呼ばれるものが根底から覆されるような珍光景にしかなり得ない。しかし、少なくともこの場にいる連中はその程度のことなど些細なことだと思っている。だから平然と目の前で起きている現実を受け入れ、自分にもできそうだと思えば試してしまうのだ。
若は打ちだされたハニワに飛び乗り、常人離れしたバランス感覚で立っていた。
「Fooooo!」
そこそこの高度を保ちながら前進してくれるので楽しいらしく、若はご機嫌で乗っている。もちろんこれを村人は見守っていたわけだが、何か大切なことを伝え忘れているような気がして首を傾げた。
「……ん?」
違和感を覚えた。次の瞬間、ロケットハニワの高度は一気に下がりだし、急降下していく。
ようやく言い忘れていたことを思い出した村人はハニワから飛び降りてと慌てて呼びかける。言われなくてもそうするつもりだった若がロケットハニワから飛び降りると背後から派手な音が響いた。見れば地面に落ちたであろうロケットハニワは綺麗に爆散したようで、跡形もなく消えていた。
最悪、爆発に巻き込まれていたとしても若であれば大した怪我にはならないとは思うが、好んで傷を負う必要もない。
村人が駆け足で寄ってきて、今更なロケットハニワの性能を教えてくれた。発射した高度を保ちながらある一定距離を駆け抜けた最後は急速に高度を落とし、地面に落ちていくという。道中で何かにぶつかれば、ぶつかった時点で爆発するそう。
「その説明は忘れるものじゃねえな」
自分以外が使うことが今までに無かったため、当然のように知っている前提で貸してしまったと呑気そうにも見える態度で謝られた。何か皮肉を言ってやろうかとも考えた若だったが悪気がないこと自体は言われずとも分かっていたし、ある意味で知らなかったからこそのスリルでもあった。
「とんでも道具を色々見せてもらったからチャラにしといてやる」
少し上からの物言いになってしまったと思って村人の顔色を見れば、他にも色々あると楽しそうに道具を取り出し始めた。別段道具としておかしなものではないがこれで戦っていると考えると、やはり珍光景にしか見えない。
ただ、これで他のファイターたちと対等に渡り合えているのだから、村人というのは強いのかもしれない……。