Encounter with monkey and gorilla

何もしたくない。あまりにも脱力しきってしまったために、思考が停止する。身体は思うように動かないし、見えるものは暗闇だけ。
初めはどうしたものかと思考を凝らしていた。何をやっても思い通りにならず、自分の身体だというのにまるで他人に乗っ取られたような感じにイラつくようになり、やがて考えることすらもやめてしまった。
これからどうなってしまうのだろうか。……そもそも、自分は一体何者だったのだろう。
考えることを止めた途端、何故先ほどまで抗おうとしていたのかさえもよく分からなくなった。何か、手放してはいけないものがあったような──。

 

混濁した意識の中、最後に感じ取ったのは僅かな明かりだった。いつも朝になるとやってくる、太陽かと思った。
ゆっくり目を開けると、熟したバナナの山が見える。どれも皮を黄色く変えたバナナたちは、まるで食べてくれと言わんばかりに存在を主張しあっていた。何故バナナの山があるのか分からないままに立ち上がり、とにかく行動しようかと思い立った時、自分が腹を空かせていることに気付く。
何をするにしてもまずは腹ごしらえだ。目の前には丁度バナナもたくさんある。一本ぐらい拝借しても怒られないだろう。
適当に選んだバナナの皮を剥き、頬張る。まさに食べ頃なバナナは甘すぎず、熟しすぎず。中々に美味だなんて思いながら、気づけばもう一本と手を伸ばしていた。いくらでも食べられる……とは言わないが、好物ではないのにここまで食が進むのは、やはり普段のバナナとは一味違うということなのかもしれない。
計二本のバナナを平らげ、バナナの山から立ち去ろうと踵を返すと、何者かの気配を感じた。
背中の大剣を手に取り、構える。気を張り詰め相手の出方を窺っていると、近づいてきていた者たちは何の警戒もなく姿を見せた。
何者かは、動物だった。茶色い毛を全身に纏ったゴリラと猿。何故かゴリラは赤いネクタイをつけており、黄色の字でDKと書かれている。猿に至っては赤い帽子を被り、簡素ではあるが星柄の入ったシャツまで着ていた。2匹とも両手いっぱいにバナナを抱え、先ほどの山に更なるバナナを追加した。
敵ではないと分かり、武器を背負いなおして今度こそバナナの山を後にしようとすると、先ほどの猿が何やら騒ぎ出した。まさかバナナの本数が足りないことに気付いたのかと思い、足早に立ち去ろうとすると猿が先回りしてきていた。
「あー……悪かったよ」
言葉が伝わるかは分からない。しかし、素直に謝った方がいいと思って謝罪すれば、何のことだと猿が首を傾げた。
どうやら、バナナを食べたことに関しては怒っていないらしい。むしろもっと食えとバナナを手渡してきた。ゴリラも同じようにバナナを持ってくる。
「いや、そんなにいらねえ」
もういいと伝えれば、バナナのごり押しをやめてくれた。次は猿独特の鳴き声を発しながら、ついて来いとジェスチャーしてきた。敵ではなさそうだが、この猿とゴリラについて行く理由も無い。それに、自分には目指したい場所がある。
目覚めた時に感じた明かり。あれは太陽のものではなく、空に浮かぶ光の珠のものだとバナナを頬張っている時、空を見上げて理解した。
猿が付いて来いと指差している先は、光の珠の元とは正反対の方角。バナナの恩義を無下にしたいわけではないが、目的地が違う以上は仕方がない。
「悪いが、俺には行きたいところがある。ここでお別れだ」
先の様子から言葉はある程度理解してくれていると考えて別れを告げれば、猿とゴリラはかぶりを振った。だが、こちらもダメだといわれて引き下がる性分じゃない。半ば無視を決め込む形で光の珠が浮いている方に足を進めようとするとゴリラに背後から襟を掴まれ、こっちだと猿と同じジェスチャーを繰り返してきた。
もう一度無視を決め込んで光の珠を目指そうとすると、さっきと全く同じように背後から襟を掴まれ、今度は有無を言わさず引きづられることになるのだった……。

 

連れてこられた場所には、いろんな人種のものたちがいた。人間から狐、丸いピンクの生き物など。もちろん、見知った顔も。
「若! 意識が戻ったのね」
いの一番に駆けつけてきてくれたのはダイナだった。話によれば、先ほどの猿とゴリラ……ディディーコングとドンキーコングが介抱してくれていたという。
この世界の在り方から、ファイターやスピリット、そして自分たちが今どういった状況であるのかを聞いた若は不敵な笑みを浮かべる。
「とにかく、キーラとかっていうのをぶっ倒せば、全員帰れるんだな?」
「単純明快な答えだ」
ひねりのない言葉に初代が笑いながらも同意する。
これでようやく四人目。残りの三人は何処に──。