Encounter with commanding officer

ハート型をした泉で、ファイターとスピリットはしばしの休息を取っていた。全ファイター救出にはまだ程遠いが、休める場所が何処にでもあるわけではない。これからも戦いは続くうえ、さらに過激になっていくことを考えると、わずかだったとしても息抜きは必要だ。
泉の水は透きとおっていて、飲み水として申し分なかった。誰もが喉の渇きを潤すため、手で器を作り口元に運んでいる中、一人だけ手に付けようとしない人物がいた。
ダイナはいつまでも見つめるだけで飲むことはおろか、触れようともしない。ただ泉に映る己をじっと見つめ、動くこともない。しかし、そんな彼女のことをほとんどの者は気に留めていなかった。
ぼんやりとしているダイナに声をかけたのはフォックスだった。正義感が強く、真面目で仲間思いである彼にとってダイナの行動は見過ごせなかったようで、何かあったのかと心配してくれた。
「特に何も。一人でいることを、苦に感じる性質ではないから」
事実、悲しんでいたわけではなく、思いつめていたわけでもない。
水を飲まない理由としては、あり得ないと考えつつ、もしもこの水に何か良くない成分が混じっていた時、全員が行動できない事態を避けるためと自分の中で納得できる答えを持っている。とはいえ、他のものたちにまで付き合わせて水分補給を断つような真似をしたいわけでもない。
皆の休憩を待っている間、特にすることもないので一人で泉の傍で腰を下ろしていただけだった。
ダイナの心の内を語るならば虚勢などは無く、文字通りなんでもない状態。しかし、まだ知り合って日が浅いこととダイナが口にした言葉、何より無表情というのが災いしてしまい、フォックスが少し怒った口調で言葉を足してきた。
フォックス自身も正義感が強すぎる故に融通の利かない部分があり、特に曲がったことが大嫌いだ。そのため、心配してくれた相手に対して、今の態度は失礼なんじゃないかと感じたようだ。
第三者から見れば、確かにダイナの態度は冷たいものに見える。フォックスの言い分に共感を寄せられる部分は大いにあるだろう。とはいえ、ダイナからすると突然相手が怒りだしたようにしか見えず、何故フォックスが怒っているのか、検討をつけられなかった。
「何が失礼に当たったのか、分からない。……気を悪くさせてしまったのなら、謝る」
ダイナはフォックスに不快な思いをさせて申し訳ないと、素直に頭を下げた。
謝った時や怒っている原因が分からないと口にした時も、彼女の表情はほとんど変化をきたさなかった。これを見て、実は表情の起伏が乏しいだけなのではないかと思い至ったフォックスは、少し言い過ぎたかと頭を掻きながら、すまないと謝った。
「別に、気にしていない。フォックスはとても強い意志を持っていて、貴方にとって譲れない行為を私が取ってしまった。私としても譲れないことだったら、意見をぶつけ合うことになったと思う。今回は私に非があって、私としては直さないといけないことに気付かせてもらったから、感謝している」
こんなにもさっぱりとしている人物に出会ったのは初めてだったのか、フォックスはどう返せばいいのか分からず言葉を詰まらせてしまう。周りに居た女性たちとはまた違ったタイプなため、色々と苦労しそうだとフォックスは困った顔をした。
「……私、また失礼なことを言ってしまった?」
表情を曇らせる彼を見て、新たな失言を重ねてしまったのかとダイナは焦る。いくら何でも謝った矢先から失態を重ねることは避けたい。口は禍の元とはよく言ったものだと思いながら、どのように詫びようかと思考を巡らせる。
そういうわけではないとフォックスが誤解を解いてくれたので胸を撫で下ろしつつ、他のファイターたちにも誤解されないよう、笑顔の練習でも始めるべきかとダイナは考えるのだった。
一方フォックスは、やはり女性の扱いは苦手だと重い息を吐くのだった……。