Encounter with red plumber

感じられたのは、不愉快なものだった。
海の奥底へと沈んでいくように身体は重く、いうことを聞かない。だというのに何か……無理やり身体を使われているような、矛盾した感覚。
目の前に広がるのはどこまでも黒で、目を閉じているからなのか、目を開けていても真っ暗だからなのかも判断出来ない。
このままでは、自分が一体何者であったのかさえも分からなくなるような気がした。消えてなくなると考えた時、魂が、何も理解出来ないままに消えてなくなるなんてごめんだと叫び声をあげた。
……いや、これが、この魂の叫びが己の心の声なんだと理解出来た時、意識が浮上した。

 

真っ先に飛び込んできたのはMの文字が描かれた赤い帽子。次に特徴的なのはでかい鼻で、付け加えて立派な口髭まで生やしている。
目と目が合った時、相手も自分と同じ青い目をしていると気付く。どうして目が合ったのかを考えて、瞳の奥にある不安を感じ取り、心配されているんだとようやく理解した。目を開けたのに口を開こうとしない相手を見れば心配するのも当然だと思い、身体を起こしてから口を開こうとして、言葉が消えた。
そもそも、こいつは誰だ? 自分はどうなった?
慌てて上体を起こせば、赤い帽子の男は驚いたのか尻もちをついていた。そんな男には気にも止めず、自分の身体を手で触る。
頭、胸、足。異常は無く、特に痛む場所も無いので安堵した。自分の状態を確認できたので、先ほどの男をもう一度見ようと思って顔を上げた時、目の前に広がっている世界を見て言葉が漏れた。
「なんだ、ここは……」
まず初めに見えたのは空に浮かぶ大きな光の珠。虹の衣のようなものに覆われており、この世界の中で圧倒的な存在感を放っていた。他には森や渓谷、氷山と火山が左右にあったり、様相の違う街がいくつも並び、池や滝、海まであった。
自分の記憶を辿る限り、一番最後に居た場所は見慣れた事務所の中で、六人の仲間たちと共に飯を食べていたはず。だが今いる場所は間違いなく外で、今見た感想を付け足すなら、ありとあらゆる世界がごちゃ混ぜになったような所だった。
……どうやら、自分の住んでいる世界とは違う世界に来てしまったようだ。理由は分からないにしても、いつものことだから問題ない。すべきことも見えてきたし、何より仲間の安否を確かめなくては。
立ち上がってトレンドマークである赤いコートと赤いズボンについた砂をはらい、武器を確認する。魔剣リベリオンと愛銃エボニー&アイボリーは変わらずに在った。これなら何が向かって来ても戦える。
とにかく歩みだそうとした時、先ほどの赤帽子の男が慌てた様子で声をかけてきた。何処へ行くんだと問われたので、すぐに言葉を返した。
「光る珠の元に行ってみようと思ってる」
空に浮かぶ光を指させば、赤帽子の男は驚いた声を上げた後、自分たちも向かっている最中だといった。その前に捕まっているファイターたちを救い出し、戦力を集めているとも。
「なるほど。つまり、目的は同じというわけだな」
赤帽子の男は大きく頷いた後、手を差し出してきた。どうやら友好の証として握手をしたいようだ。目的を共にする同士であるというなら断る理由も無いので、握手に応じた。
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺の名はダンテだが、ちょいと訳ありで初代と名乗っている。初代と呼んでくれ」
相手は呼び方に了承した後、マリオと名乗った。
小柄で小太り、赤いシャツに青いオーバーオールを着ているマリオを改めて見て、少し頼りなさそうでありながらも憎めない、芯の強さを感じさせる風格に、自然と不安は抱かなかった。
マリオとなら、眼前に見える広大な土地を巡るのも悪くない。