Matchless beautiful girl

 現実の時刻はおやつの時間。いつだったかの大会で優勝した時に貰ったお菓子をいくつか持ってきて、ゆったりしながら探偵組がセッションを再開する。
 実はこのお菓子はダイナのだったりするのだが、そんなことはお構いなし。運ばれてきたお菓子を早速口に入れるおっさんはその手を止めず、一人でどんどん片していく。いくら本人が食べないからと言っているとはいえ、少しは遠慮を覚えるべきである。
 しかし、完全に寛いでいるのおっさんを気にすることなく、二代目は処理を始める。
「クリニック前からテメンニグル大学前に移動で10分。ここから聞き込みで20分経過する。……声をかけられる人物がいたか<目星>で探してくれ」
 先ほどの二の舞になりませんように。お菓子をつまんでいる人物を除いた者たちはそう願いながら、ダイスを転がす。

 聞き込みできるかな?
 ダイナ 目星60
 1D100=12

 おっさん 目星65
 1D100=85

 ネロ 目星75
 1D100=60

「出目が……下がった!」
 ようやく落ち着いた出目に、本気で喜ぶダイナ。五分の一以下の数値で成功したので、セッション終了後に成長判定も行える。ネロも安定して成功の中、おっさんが失敗したようだ。
「やる気がダイスに反映されているな」
「菓子をつまんだぐらいでやる気がなくなるとは、だらしがないことで」
 二代目のジョークを笑い飛ばして、またお菓子を口に含む。
 一方は低い出目に喜ぶ奴。もう一方は誰か一人でも成功してるから大丈夫だと言わんばかりのお気楽さ。これを見たネロは一人、自分がしっかりしなくてはと緊張感を高めるのだった。

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 2000年6月10日午後0時10分。調査を再開した探偵たちは、場所を移してテメンニグル大学前で聞き込みを始めたものの、誰に声をかけても犬を6匹もつれた人物を見たという証言は取れなかった。次の人を最後にしようと、ネロが一人の女性──歳は50代だろうか──に声をかけた。
「すみません。今お時間ってありますか?」
「え、えぇ……まあ。どういったご用件で」
「昨日の早朝に、たくさんの犬を引き連れていた人間を見かけませんでしたか?」
「たくさんの犬……ですか。いいえ、そういった人物に心当たりはありませんね。……犬といえば昔、すぐ近くにある動物病院から犬が盗まれたとか。そこの大学内に図書館もありますし、調べたら出てくるかもしれませんよ」
「そうなんですか? ありがとうございます」
「それじゃ、私はこれで」
 力になれなくてごめんなさいね、と言い残し、女性は去っていった。
 先ほどの女性が言った、すぐ近くにある動物病院というのはデュマーリアニマルクリニックに違いないだろう。
「初耳だな。……ダイナさん、このことは知っていたのか?」
「いえ、知りません。二代目院長からもそんな話は一度も……」
 どれぐらい昔なのかは分からないが、穏やかではない。しかも今回も同じように犬を盗まれているというのは、因果関係を嫌でも連想してしまう。
「変に関連付けるのは止せよ。何年前の事件か知らないが、犯人は恐らく捕まっているだろ。気になるならさっきの女性が教えてくれたとおり、大学の図書館で調べ物と行こうじゃないか」
 今回の事件とは無関係である、という裏付けを取るのだって必要なことだとおっさんは語る。先入観が残っていると大事な場面で見落としをしてしまう可能性があるというなら、それを徹底的に潰すというのも無駄ではない。
「それぐらい分かってるっての。……調べ物の前に飯、食おうぜ」
「なんだ、腹が減ったのか。奢らねえぞ」
「誰がおっさんなんかに集るかよ」
 2000年6月10日午後0時30分。気になる事柄を調べる前にご飯を食べることになった三人は、テメンニグル大学の学生食堂を目指すのだった。

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「時刻的に……出会うな。少し待っていろ」
 何にという問いをかける暇もなく、二代目は警察組が待機している別室へと行ってしまう。と思ったらすぐに警察組を引き連れ、部屋から出てきた。
「そっちも大学に来たのか。そして学生食堂に飯を食いに来たと」
「発想が同じなところが、自分なんだなって思い知らされる」
 別人でありながら同一人物という、自分でも何を言っているのか良く分からないが、そっとしておこう。……というか、探偵組は学生食堂を提案したのはネロであって、おっさんではない。
「たくさんの人間が利用しているであろう学生食堂の中で、知り合いを見つけられたか全員で<目星>」

 知り合いが目に留まるかな?
 ダイナ 目星60
 1D100=91

 おっさん 目星65
 1D100=89

 ネロ 目星75
 1D100=02

 初代 目星80
 1D100=43

 若 目星25
 1D100=92

 バージル 目星25
 1D100=41

「あっぶね!」
「また出目が上がった……」
「ファンブルじゃなきゃ、どんな出目も同じさ」
 何故半数が80を超えているのか、これが分からない。バージルは出目自体はそこまで悪くないが、如何せん<目星>が初期値なために失敗。初代は安定の成功で、ネロはクリティカルとかなり調子がいい。
「六人も居て、二人しか気づかないことに驚きだ。初代は普通におっさんとダイナに気づいたな。ネロは慣れない場所で知人を見つけたことは、自身が思っている以上に安心感があったようだ。1D3のSAN値を回復していい」
 まだSAN値が減るような出来事に遭遇していないネロだが、貰えるものは貰っておこうの精神でダイスを投げる。

 友達を見つけて安心
 ネロ SAN値60
 1D3=2

 ネロ SAN60→62

 可もなく不可もなくといった結果だったが、ご褒美のようなものなので文句はない。キャラクターシートを手直しして、合流したところから話を始めることに。

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 2000年6月10日午後0時40分。テメンニグル大学内にある学生食堂に来ると、時間帯のこともあって学生だけでなく、教授や自分たちと同じように近場を通ったであろう人たちでごった返している。どうやらここの食堂は美味しいと巷で有名らしく、連日たくさんの客が利用しているようだ。
 そこでネロは見知った顔を見つける。同時に、その友人と共に食事を取っている警官もこちらに気づいたようだ。
「若……? 警官と一緒って……またなんかやったのか?」
 声をかけられ、口の中をご飯でいっぱいにしている若が顔を上げればネロと視線が絡む。
「んぐっ……! ゲホッ! な、なんでネロがっ……ここにっ……」
「焦んなよ。あー……ほら、水」
「サ、サンキュ……」
 手渡された水で喉に引っかかっている物を一気に流し込み、ゴクンと大きな音を立てながら飲み込む。予想外の友人との再会に、若とネロは久しぶりだと言葉を交わす。その傍では、初代とおっさんが挨拶をしている。
「ようおっさん、奇遇だな。……二代目が依頼を出したと思うんだが、なんでお嬢さんと一緒なんだ」
「なんでって、このお嬢ちゃんが依頼主だからさ。一応、二代目にも会って来たが……まあ、お前の友人っていうだけはあるといった感じだな。……というかバージル、お前なんでこいつと一緒にいるんだ」
「貴様の知り合いか……。道理で変に融通が利くと感じたわけだ。もっとも、俺はただの被害者だがな」
「お前が被害者とか何のジョークだよ。どうせまた職質とか受けたんだろ」
「叩き斬るぞ」
「なんだ、バージルとおっさんも知り合いなのか。……意外と世界は狭いな」
 初代が若と雑談している青年のことを聞けば、おっさんの助手だという。色んな所で近場の人間同士で顔見知りがいるのは、やっぱり世界は狭いと思わせる。
 そんな中ダイナは一人、少し居づらそうにそわそわしている。
「そういやネロ、お前なんであんな美人な女性と一緒にいるんだよ。紹介しろよな」
「今回の仕事の依頼主だよ」
「あ、ダイナって言います。今、探偵さんにお世話になっています」
「へえー。俺は若、用心棒やってる。こっちは兄貴のバージル。オカルト作家とかいう陰気くせえことしてる」
「勝手に喋るな。後なんだ、その紹介の仕方は」
「愛想は悪いけど、大目に見てくれ」
「私も無愛想って言われるから、お相子」
 事実、今の台詞も真顔で言うあたり、表情を表に出すのが苦手なことはすぐに分かる。それでも若は気にする様子もなく、ダイナに色々と話を振っている。若干一名、お冠だが。
 若者たちが雑談に花を咲かせながら、ネロとダイナは先に食事を選んで食べ始める。若とバージルは先に済ませているので、そのまま話し込んでいる。その傍らでおっさんも食事を取りながら、初代に現在の状況を伝え始めた。
「動物の行方のこと、気になってるんだろ。……教えてほしいか?」
「当たり前だ。本当は俺がきちんと解決してやりたかったんだから」
「……あのお嬢ちゃんのためにか?」
「否定はしない。が、それを抜きにしても、二代目の依頼だったしな」
「そのことだが、昔も犬を盗まれたらしいな?」
「……何の話だ」
 昔も、という言葉に初代が声を潜める。その反応を見たおっさんは、お前も知らないのかと真剣になる。
「お前の友人だっていうから、あまり疑いたくはないが……何か隠してるぜ」
「そのこと、本人から聞いたのか?」
「いいや。聞き込みしてたら、たまたま坊やが引き当てた」
「昔の事件自体は犯人が捕まっていて、解決しているということは」
「それがここの図書館の資料に残ってるんじゃないかって言われてな。飯の後に調べに行くつもりだ」
「そうか……」
 ため息交じりに呟いた後、テーブルに肘をたてて黙り込む。二代目が隠し事をしていたということを思い置くというよりは、その事件を自分が解決するのに協力できないことを悔やんでいるといった様子だ。
「もちろん、ついてくるだろ」
「そうしたいのはやまやまだが、こっちにも事情ってもんが……」
「お前だって、こっちの都合はお構いなしに依頼主を送り付けて来たんだ。お互いさまって事にしようじゃないか」
「送らなかったら今日も怠惰に過ごしてたってのに、都合のいいことを……。と言いたいところだが、今回ばかりは感謝する」
「日頃から感謝してくれ。……で、そっちはどういう流れでバージルとその弟と一緒にいるんだ」
 俺は弟の方とは初めて会うと付け足しながら、若者たちの方──歳で言えば初代も若い──を見る。
「殺人事件の第一発見者だ。……見た目があれだからな。犯人として疑われてるから、俺が個人的に匿ってる」
 バージルはそのオールバックにした髪型と生まれ持った目つきの鋭さが災いし、そっちの人間なのではないかとよく誤解されがち。さらに弟は用心棒とこれまた誤解を招く職に就いており、自分も作家ではあっても蓋を開ければオカルト作家なところなど、もう弁解のしようがないほどに疑われる要素を詰め込んでいる。
 なんて初代とおっさんが真面目に情報交換をしあっている中、若い連中と言えば……。

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「二代目! ダイナを口説く!」
「来ると思っていた。APP対抗だ」
「なら、あしらう」
 本日2度目のAPP対抗ロール。ダイナも躊躇いなくあしらおうとするあたり、TRPGに慣れてきた様子。

 彼女を口説こう!
 若 APP対抗 [50+(15-15)×5]% 目標値50
 1D100=63

 口説かれたことに気づくかな?
 ダイナ アイデア65
 1D100=14

 若のアタックは失敗したようだ。だが今回のダイナは<アイデア>に成功しているので、口説かれているということに気づいたことになる。つまり……。

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「なあダイナ。良かったら今度、遊びにいかねえか?」
「遊び……例えば」
「あー、まあ……初めはカフェとか?」
「ん……考えておく。だけど私、基本1日中お仕事してるから、あまり遊べない」
 一生懸命ダイナを口説く若の姿が。
 口説いている本人が本気だということはひしひしと伝わってくる。……伝わってくるのだが、それはダイナ自身も気づいているわけで、明らかにお断りされている。
「……あしらわれてるな」
「愚弟が……見苦しい」
 それを目の当たりにしている友人のネロと、兄であるバージルからすれば恥ずかしい以外の何者でもない。そこへ少し離れた場所で話していたおっさんと初代がやってきた。
「おいこら。何勝手な事してんだ」
「あんたには関係ないだろ」
「大ありだ。ったく、油断も隙もあったもんじゃない。……嫌な思い、しなかったか?」
「大丈夫です。これくらいはあしらえるようになっておけと、二代目院長に言われていますから」
 二代目が個人経営しているデュマーリアニマルクリニックは、そもそも獣医師が二代目とダイナの二人のみ。歳は親子と言って差支えないほどに離れているとなれば、それこそ娘のように扱ってしまうのだろう。そのことを知っている初代は彼が色々とお節介を焼いているところを想像して、軽く表情が緩む。
「飯は食ったな。坊や、友人と久しぶりに会えて舞い上がってるところ悪いが、そろそろ仕事に戻るぞ。とはいっても行先は同じだが」
 友達とまだ一緒に居れて嬉しいだろうと言わんばかりにニヤつくおっさんの態度がネロにとっては我慢ならなかったらしい。

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「二代目。おっさんに<こぶし>」
「いいぞ」
「待て、それってダメージ受けるのか?」
「無論だ」
 当然の如く殴りかかってくるネロと、それを迷うことなく許可を出す二代目。いくら茶番とはいえダメージを受けるとなればおっさんも黙ってはいない。命中判定が成功したら<回避>を振らせてくれと宣言すれば、それも許可が下りた。

 ガキ扱いすんじゃねえ!
 ネロ こぶし50
 1D100=26

 うまく躱せるかな?
 おっさん 回避24
 1D100=32

 ダメージ判定
 1D3+1D4=1+1=2

 おっさん HP11→9

 見事、ネロの<こぶし>がおっさんにヒット。ダメージが最小であったのは不幸中の幸いか。後は地味にネロの<こぶし>が初期値成功なので、セッション終了後に成長判定だ。
「茶番で技能が成長する機会が得られるって、いいな……」
「引き換えに俺のHPが減ったけどな」
 おっさんは特に気にしていないが、仲間内で攻撃しあうのが得策なわけがない。二代目自身もまさかここまできれいに決まるとは思っておらず、少しやってしまったかと反省の様子。ということで、ダイナに<医学>を振ってもらうことに。

 傷が残ったら大変
 ダイナ 医学70
 1D100=02

 回復値 クリティカルにより最大値
 1D3+1=3+1=4

 おっさん HP9→11

「これ、成功すれば良かっただけ……」
「無駄クリって奴だな。大事な場面でのクリティカル恩恵は得られないって考えておくか」
 回復してもらったというのにこの言い様は流石おっさん。対してダイナはクリティカルが出たこと自体が嬉しいようで──正確に言えば出目が下がったこと──気にしている様子はない。
「茶番も終えたところで、今後の行動を提示してくれ」
「全員でテメンニグル大学内にある図書館へ移動だ。そこで調べ物がしたい」
 あくまでも殴られたのはお遊びの中だと割り切っているおっさんが宣言をする。
「警察組もそれでいいのか」
「問題ない。それで進めてくれ」

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「F*** you!」
 食堂で言い放つような言葉でないセリフを吐き、ネロがこぶしをおっさんめがけて振るう。避けようとしたおっさんは反応が間に合わず、それを見事に顔面で受け止める。
「いっ……てえ! 坊や、お前な……!」
 殴られた部分は綺麗に赤くなり、くっきりと跡がついている。これにはおっさんも声色に若干の怒りが滲ませているが、それでも言いかけた言葉をぐっと堪えた。
「……見せて」
「優しく頼む」
 目の前で男性が殴られる姿を見ることになるとは思っていなかったが、傷を見ればそこまでひどいものではなかったことにダイナは愁眉を開く。出来るだけ傷が痛まないように手際よく手当てを施した。
「ネロも気性は荒い方だし気を付けた方がいいぜ。おっさん」
「忠告ありがとよ。まあこれぐらい日常茶飯事だ、どうってことない」
「常日頃から殴られているのは貴様らしい。……ネロといったか。今度腹が立ったら言え。閻魔刀を貸してやる」
「助かる」
「それは冗談にならないからやめてくれ」
 2000年6月10日午後1時30分。予想外の友人たちと再会した探索者たちは食事を済ませ、それぞれの求める情報を集めるためにテメンニグル大学内の図書館へと場所を移した。
 大学内にある図書館は一般公開されているため、普段からそこそこに人が出入りしている。もちろんそれは今も例外ではない。閉館時間も午後9時とかなり遅くまで開いていることもあり、国立図書館よりもこちらを利用している人間も多いだろう。とはいえ、閉館時間に近づけば自然と人の数も減っていくのは間違いない。
 一般公開されているだけあって、ある程度のことならば大抵調べがつきそうなほどに多種多様な本が並べられている。漠然と調べていては必要以上に時間を使ってしまいそうだ。

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「ここで確認だ。誰が何をどう調べる」
「今ここで取りたい情報は確か、俺たち探偵は昔もあったっていう強盗のことか」
「こっちは殺害された人物と親しかった奴から生前の話を聞きたいところだ」
「殺害された人物と親しい人間を探すなら<目星>と<信用>の組み合わせで判定するとしよう。強盗に関しては具体的にどう探すか、何か指定はあるか?」
「あー……昔って言ってるんだし、古い本を探せばいいのか?」
「そういうのって本なのか? 事件なんだしなんかこう……あるだろ」
 どういった物というのが出てこず、あれだよあれという漠然とした表現が飛び交うこと数分。これ以上は待っても出てこないと踏んだ二代目が処理に入った。
「昔の資料を探すということで<図書館>だ。成功でも失敗でも3時間かかる」
 通ったことのない場所で欲しい情報だけを適切に抜き取るというのは不可能に近い。それを踏まえればこれぐらいの時間はかかるだろう。
「二代目。物は相談なんだが、今は全員が図書館に居るんだろ。だったら警察組の奴が探偵組の方を手伝うとかってありか?」
「ふむ……。まあ、全員何かしら関係を持っているし、先ほどのRPで相応に仲良くなっただろう。構わない」
「助かる。ならダイナ、ネロ、バージルが<図書館>を持ってるからそっちを担当だな。組み合わせに関しては……俺以外望み薄だな」
 ここにいる全員の内<信用>を取っているのは初代のみ。おっさんも<いいくるめ>は持っているが、これでは今回役に立てない。若に関しては戦闘特化なため、こういった場面ではすることがないのがネックだ。
「組み合わせの判定って、どういう処理なんだ」
「ダイスを振って、低い方に合わせる形になる。今回は<信用>の65より下回れば成功だ」
「……警察手帳で<信用>に補正、入らないか?」
 持ち物を使うという提案に二代目は快く了承してくれる。今回の補正は+10%ということになった。
「俺はそうだな。初代が失敗したときに<いいくるめ>でもう1度チャンスを作れないか?」
「面白い提案だ。……いいだろう。なら初代が組み合わせ判定に失敗した場合、髭の<いいくるめ>が成功したらもう一度ダイスを振っていい。ただ、最初に出したファンブルで技能値が下がっていることを忘れるな」
「提案を飲んでもらえるだけでありがたい」
 おっさんが組み合わせ判定を行うより初代が行った方が絶対に成功率が高い。これである程度の成功が保証されたことになる。残る若は何をしようかと考え、思い立った。
「俺、女に声をかける」
「……はっ?」
 とんでも発言に素っ頓狂な声を上げるネロを尻目に若は続ける。
「APP15ってイケメンなんだろ? だったら異性からなら話を聞けるんじゃないかって」
 決してふざけているわけではない──むしろ真面目──提案に二代目はいいだろうと即答した。
「時間経過に関してはこちらで管理する。若はAPPの3倍で判定だ。……さあ、全員ダイスを振ってくれ」

 必要な資料を探し出せ!
 ダイナ 図書館70
 1D100=90

 ネロ 図書館65
 1D100=56

 バージル 図書館80
 1D100=56

 事件にあった女性の友人探し
 初代 目星80 信用65+10
 1D100=61

 初代を補佐しよう
 おっさん いいくるめ70-10
 初代成功により除外

 イケメンを活かすとき!
 若 APP45
 1D100=29

「順当に成功したな。……ダイナ以外」
「あんた、もうダイス振るのやめた方がいいんじゃねえの」
「それ、私が一番思っている」
 ここまで外すと、もはや一つの芸に見えてくる。何気にリアル親子は出目も同じで成功しているが、ダイナの出目を見るとそれすら霞む。後は若のAPP判定も成功しているのが優秀だ。
「初代が成功したから髭のすることがなくなったが、何か提案があれば聞くぞ」
「いや、初代の補佐を務めてたはずだからな。同じように時間を進めてくれ」
「ならばそうしよう。まずは<図書館>に成功した二人は『地元事件を集めた新聞』を見つけることが出来た。これは過去50年分がまとめられている。中身を読むなら10年単位で30分かかる。全て読破するなら計2時間30分だ」
「探すだけで3時間経ったっていうのに、こっからまだかかんのか……」
 見つけるだけでもかなりの時間を浪費したというのにここからさらに時間経過がかさむとなると、どれぐらい読むのかが重要だ。ただピンポイントに絞りすぎて情報を取り逃すのも怖い。
「次に組み合わせ判定に成功した初代は館内で一人の女性に気付く。その人物は手に持った本を読むわけでもなく、ただボンヤリとしている様子だ。声をかければ心ここにあらずといった感じではあるものの、応対はしてくれる。若の成功情報も同じだ。近場に居た女性に声をかけて話を聞けば、初代が声をかけている人物が仲が良かったと教えてくれる。聞き込み組はこれで30分経過したと思ってくれ」
「了解だ。ここから話を聞き出すには、どれぐらいかかる」
「声をかけた初代なら分かるだろう。その女性は明らかにうろたえていると。そのため、何か1つ聞き出すのに15分かかる」
「まずは……今回の殺人事件について知っているかどうかの確認からだな」
「その言葉を聞いた女性は現実を突きつけられたようにうなだれながら、力弱く頷く」
「……これ、地雷か?」
 完全に言ってはいけない単語を伝えてしまったと後悔する初代。しかしここで引き下がっては情報が途切れ、今後の方針が取れなくなる。
「この女性には悪いが聞けるだけ聞き出す。いい感じに気遣いながら、死んだ女性の特徴を聞くぞ。恨まれてたのかとか、外見の特徴とか」
 意を決しておっさんが質問を重ねれば、二代目は答えてくれた。
「大学内でも五本指に入るぐらいの美人だったと答える。そのため、恨まれていなかったとは断言できないとも。……これは2つの質問として換算するぞ」
「抜け目がないな。……おっさん、他に聞いておきたいことはあるか」
「その殺された女性はここ最近の間で変なところはあったか、ぐらいか?」
「……それを聞き出すならもう一度<信用>か、今度は<いいくるめ>でもいい」
「ビンゴだ。振るぜ」
「二代目。俺も初期値だが振ってもいいか?」
「いいぞ。なら三人で振ってくれ。それと初代、悪いが今回は警察手帳の補正はなしだ」
 何を聞いたらいいか全く浮かんでこない若。せめてダイスだけでも振って、少しでも確立を上げることに貢献することにしたようだ。

 聞き出せるかな?
 初代 信用65
 1D100=55

 おっさん いいくるめ70-10
 1D100=49

 若 信用15
 1D100=63

 特出すべきことのない安定した結果。……本来であればこれが普通と呼ばれるものなのだろうが、今までのを見せられていると一種の感動すら覚えてしまいそうだ。
「成功か。ならば答えてくれるだろう。つい最近、彼女の母親が自殺をしてしまい、随分と苦労していたと」
「自殺……?」
「聞くか? 当然時間は進めるぞ」
 ここで聞かないという選択肢は出てこない。聞かせてくれと話を進めれば、口頭ではなくHOが三人に渡された。それを読み終えた三人は顔を見合わせ、次の目的地を決定した。
「もう十分だな……。この女性にお礼を言って立ち去る。二代目、現在時刻を確認してもいいか」
「午後3時15分だ。本を調べている三人はまだ1時間弱かかる」
「ならこっちの三人でフォルトゥナ教会へ移動だ。大体1時間弱で戻ることを調べてるやつらに声をかけてから行くぜ」
「それぐらいなら邪魔にならないだろう。……一旦RPを挟もうか」
 調べ物をしている三人は何故彼らがフォルトゥナ教会へ向かうのかさっぱり分からないが、先ほどのHOを見ればこの行動も理解できるだろう。……もっとも、内容の詳細を伝えることは作業の邪魔になるため午後4時30分以降でないとダメだと二代目から止められてしまったが。
 またここで、図書館組が一旦別室へ移動することに。

 HO情報
 “レスティアの母はフォルトゥナ教の信者で、悩みなどは自分から教会へ行って話を聞いてもらって解決するなど、行動力のある人物だった。そのため、とても自殺するような人ではないはずだったのに……。そのことも相まって、レスティアは心身ともに疲れていたと思う”

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「辛いのに話してくれてありがとうな」
「いえ……。あの、警官さん。絶対に犯人を捕まえてください。お願いします」
「……ああ。任せておけよ」
 殺害された女性──レスティアの友人から話を聞き終えた三人は今も調べ物を探している各々の知り合いに声をかけ、フォルトゥナ教会を目指した。
 2000年6月10日午後3時25分。若は再び、おっさんと初代は本日初めて訪れるここ──フォルトゥナ教会は相も変わらず真っ白な外観が眩しいほどだ。教会内へ足を踏み入れる前に三人は気づく。何をするわけでもなく、ただ扉口に佇む少女に。

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「この少女って、朝に俺とバージルが見かけた、あの?」
「その通りだ。若はそのことに気づいていい。さて、見た限りの情報が欲しいなら<目星>だ。時間が経っているから、若ももう一度挑戦していいぞ」
 今度こそ成功させると張り切る若。初期値だというのにやる気だけは頼もしい限りだ。それに今回は若が成功せずとも初代は<目星>の成功率が高い。恐らく大丈夫だろう。

 少女の見た目は?
 初代 目星80
 1D100=17

 おっさん 目星65
 1D100=45

 若 目星25
 1D100=58

「安定してきたな。では初代と髭はこの少女をこう表現するだろう。……絶世の美少女である、と。また歳は見た感じ10歳に満たないぐらいだとも思うだろう」
「ほう……? つまり、APPが高いってことか?」
「メタ的に言うならそうだ」
「そんな子どもが一人で出歩いてるってのは関心しないな。しかもここ、殺人現場から20分弱の場所だろ。声をかけるぜ」
 警察官である初代の立場からすれば、声をかけずにはいられないだろう。……しかし、初代が声をかけると言い切った瞬間、二代目が手を止めた。これには別室で時間経過を待っている図書館組ですら何かあったと分かるほどだった。
「……すまない。表情に出すのはよくないな。初代は<アイデア>だ」
「これ外したら俺はどうなっちまうんだ……」
 二代目の場合は表情に出ているというよりは態度というか、オーラに出てしまうところがKPとしての欠点なのかもしれない。……宣言した後なので、結果的には問題ないのだが。

 何に閃く?
 初代 アイデア65
 1D100=34

「あー、心臓にわりい」
「それはこちらの台詞だ。成功した初代は思うだろう。“どのような言葉で言い表せばいいのかわからないが、とにかく関わらない方が良いのでは”と」
「第六感が働いたな。ならその勘を信じて声をかけるのを止める。後二人にも情報共有しておくぞ。あの少女にはかかわらない方がいいってな」
「これ、成功してなかったら本当にヤバかった奴だ」
 今回に関してはかなりお気楽に構えていた若といえど危機を感じざるを得ないほどだった。……全く、そんな危険なものをこんなところに置いたのは一体どこの誰だろうか。
「直感を相手に信じてもらうとなると<説得>だな。髭に関しては初代とそこそこの付き合いだから+10%の補正をやろう」
「頼む初代! 俺たちの命運がかかってる!」
「分かってるさ。ここで外したら男が廃る」
 両手を合わせて拝む若に任せておけと言いながら、初代がダイスを振る。

 危険を知らせよう!
 おっさんへ<説得>
 初代 説得65+10
 1D100=48

 若へ<説得>
 初代 説得65
 1D100=22

「初代の出目は安定しているな。おかげで安心して振らせられる。……ほんの少し、ダイナにも分けてやれないものだろうか」
「俺、初代から離れたくなくなってきた」
「気色悪いこと言うなよ。後、ダイナのことは言ってやるな……」
 女運がないだのと騒いでいた自分たちの運の悪さを嘲笑うほどのダイナの出目の荒ぶりようには、KPを務める二代目ですら頭を悩ませている。なんて噂をされていることを別室で待機しているダイナは露ほども知らない。
「謎の少女は無視して中に入る」
「中には何人かの信者が祈りを捧げている。後は祭壇近くに神父が立っているな」
「だったら神父に声をかけるぞ」

──────────────────────

 2000年6月10日午後3時30分。教会内に入れば至って普通の内部であり、取り立てて特出すべき物はない。どこの教会でもあると思われるものでしいて名前を挙げるならば、祭壇があると言ったことぐらいか。ここで出来ることと言えば神父から話を伺うことと、祈りを捧げる信者たちに軽く問いかけることぐらいだろうか。
 初代は迷うことなく神父の元まで歩いていき、声をかけた。
「祈りの最中に悪いな。少し聞きたいことがある」
「これは……警察の方がこのようなところにまでご苦労様です。私にお答えできることでしたらなんなりと」
「先日、殺人事件があったのは知っているか」
「……ええ、ニュースで一応は。まこと、悲しいことです。神から頂いた尊き命をあろうことか奪うなどと」
「ああ、全くだ。それで被害者の母親がここの信者だって聞いてな」
「なるほど。……こちらへいらしてください。この場でお話しするには少し、憚ります」
 お付きの方々もどうぞと神父が先導する。彼についていけばそこには簡素な個室があった。相談に来る人たちはここへ通して話を聞いていると神父は言う。
 促されるがままに三人がソファに腰かければ神父も向かい側に座り、初代が口を開くのを待っている。
「話をつづけるぜ。その信者は自殺したと聞いたが、本当か」
「……本当です。確かに彼女は数多くの悩みを抱えてはいましたが、いつも熱心に祈りを捧げ、決して一人でため込むことはせず、みなと協力して困難に立ち向かっていく勇敢な女性でした。だというのに何故、彼女が自ら命を絶ってしまったのか……。私にも分からないのです」

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「彼女が自ら命を絶ったのが私にも分からないってところに<心理学>を振りたい」
「俺もだ。神父ってのはどれも胡散臭くてな」
「偏見の塊で疑っているのか……。まあ、いいだろう。<心理学>はKPである俺が振る。出目に応じた結果は渡すが、成功か失敗かは開示しない。いいな」
「……ということは、持ってる奴と持ってない奴で振った方がいいのか」
「結果論を言うなら出目次第だが、理屈としてはそうだな」
「なら俺の分も振ってくれ。俺だってさっき大学で女性から話を聞いているんだし、疑って聞いてるはずだ」
 理屈としても申し分ない若の言い分に二代目は二つ返事で承諾する。そして部屋の中で3回、乾いた音が響いた。

 なにかんがえてるの?
 初代 心理学60
 1D100=??

 おっさん 心理学75
 1D100=??

 若 心理学05
 1D100=??

 一瞬、二代目の表情が死んだような気がした。が、あくまでも気がしただけで、もう一度見ても普段通りだ。出目を元にしたHOがそれぞれに渡される。

 初代HO
 “神父が嘘をついているか分からなかった”

 おっさんHO
 “神父が嘘をついていると確信した”

 若HO
 “神父が嘘をついているか分からなかった”

「これの共有に関しては神父がいなくなってからだな。……さて、被害者の母親が自殺したのかどうかも怪しいところだが、何が原因だったかは分からず仕舞いか。これだと被害者自身が狙われた理由とも接点がないな」
「……なあ、そのことを神父に聞いてみたらいいんじゃないのか? 自殺する前に相談とかに乗らなかったのか、とか」
「ナイスだ若。二代目、それに対して神父はどう答える」
「最後に彼女の相談に乗ったのは自殺する2日前だと答える。その時受けたのは“絶世の美少女が段々と比喩しがたい何かに変わっていく夢をここ数日見続けている”と言ったものだ」
 絶世の美少女と聞いて三人は戦慄する。それはどこかで聞いたフレーズだ。しかもごく最近。……いや、数分前のレベルで。そして初代は改めて確信する。あの時の<アイデア>に失敗していたら、確実に自分はどうにかなってしまっていたと。
「これは坊やたちにも共有しておかないとだな。……ってことはなんだ、完全に読み間違ったか?」
「少なくとも関わると絶対ろくなことにならない美少女がいるってことは分かったが、今欲しいのはその情報じゃないんだよな」
 教会前に立っている少女が何なのか気になるところではあるが、そこは問題ではない。初代は殺人事件を追っている以上、それに関連する情報が欲しいのだ。おっさんも同じく犬を捜索しているのだから、犬に関する情報が欲しい。
「いやだから、それなら神父に聞いてみたらいいんじゃねえのか」
「若がすごく天才に見えるぞ。どうした過去の自分」
「いきなりなんだよ、気味悪い。歳取ると頭が固くなるんじゃねえの」
「お前……仮にも未来の自分に……」
 お互いに何か言いあえば、傷つくのは自分なのだが……。というか、それを脇で聞いている二代目が一番心にダメージを受けているように見える。そんなことは知らぬ存ぜぬでヒートアップしていく三人の言い合いに、二代目が今までに見せたことのない悲しそうな顔色を浮かべていたことは誰も知らない。
 ひと悶着を終えてようやく本題に入り、殺人事件のことや犬のこと、教会前に立っている少女のことなど神父に聞ける限りのことは全て問いかけたが、有力な情報が出てくることはなかった。
「これさ、神父は本当に何も知らない一般人なんじゃ……」
「若もその結論に至ったか。俺もそうなんじゃないかって感じてきた」
「時間だけ無駄に使ったか……」
 現在の時刻を聞けば午後4時30分だと言われ、どうするかと考える。一旦大学内の図書館へ戻り、一緒に地元新聞を読んで情報を手に入れるのが一つ。もう一つはこのまま教会内にいる信者たちにも聞いて回るかどうかだ。
「……俺は坊やに電話をかける。それで調べ物の状況を聞いて、必要ならそっちに出向くことにする」
「単独行動は避けた方がいいんじゃないのか。……そういう意味で三人ずつに分かれたのは良くなかったな」
「今更言っても仕方ないって。俺はおっさんの電話に一票。ただ、戻ってきてほしいって言われることはないと思うんだよな。ネロとバージルだし」
「言われてみればそれもそうだな。だったら情報共有だけして向こうにはそのまま調べ物を継続してもらうか」
「それがいいだろうな。こっちはこっちで教会は全部虱潰ししちまうべきだと俺は考えてる」
 結論が固まったので、さっそくおっさんがネロに電話をかける。現実の方では別室で待機しているネロだけ呼んで、おっさんとかくかくしかじかをするのだが。

──────────────────────

 2000年6月10日午後4時30分。神父に聞ける限りの話を聞いた一行はお礼を言って個室から出る。電話をかけてもいいかと聞けば、この個室前であればいいと了承してくれた。そうして神父は一足先に祭壇のある所まで戻っていった。
 それを確認した初代がおっさんと若に確認するように口を開いた。
「……あの神父、嘘をついていると思ったか?」
「いや、俺はさっぱり分からなかった」
「俺はうそをついていると確信を持った。……んだが、蓋を開けてみれば何も知らなかった」
「やけに食って掛かってると思ったらそれが原因か。……まあ過ぎたことはいっても仕方ない。時間的に向こうも調べ物が終わってる頃だろうから、切り替えていこう」
「ああ。とりあえず坊やに電話をしてみる。少し待ってくれ」
 携帯電話を取り出し、登録してある番号の中からネロという名前を探し、掛ける。呼び出し音が3回ほどループしたところで、普段よりも若干声質の低いネロの声が聞こえてきた。
『おっさんから電話とか、明日は槍が降るな』
『よく言うぜ。探し物は見つかったか?』
『ああ、50年分の地元事件を取り扱った記事を見つけた。今から目を通すところなんだが、これも結構時間がかかりそうだ』
『そうか。人数が多い方がいいか?』
『いや。こっちにも三人いるし、十分だ』
『ならこっちはこのまま聞き込みを済ませることにしよう。……何かあったらすぐに連絡を入れろよ。ああ、後こっちに来ることがあったら絶対に“絶世の美少女”には声をかけるなよ』
『はあ? なんだよそれ』
『いいから、素直に聞いとけ。上司命令だ』
『都合のいい時だけ上司になるなよ。……まあ、了解した』
 伝えるべきことをお互いに話し終え、通話を切る。電話越しに会話を聞いていた二人もおっさんの方針で問題はなさそうだ。図書館組が資料を読み漁っている間、こちらは殺人事件と失踪した犬の聞き込みを再開するのだった。

──────────────────────

「ネロ、図書館組はどれだけの記事を読むか決めたか?」
 別室へ戻ろうとするネロを引き留め、行動の確認を取る。
「ああ、情報を逃すのも怖いしってことで、全部読むことにした。読む分には時間消費だけで、全部もらえるんだよな」
「その認識で問題ない。では、この情報に三人で目を通しておいてくれ。ちなみに、一人ずつ担当する記事を分割しても、情報共有するなら同じ時間がかかると思っておいてくれ」
「対策済みか……。なら素直に全員で全部の記事に目を通すことにする」
 これで午後7時まで図書館組は行動出来ない。その間はもう少し、聞き込み組の行動が続きそうだ。二代目に渡された資料を持ってネロは別室へと引っ込んでいった。
「坊やたちも頑張っている以上、こっちも何か情報を持ち帰りたい。信者に聞き込みを始めたいんだが、どれぐらいいるんだ」

 秘密の結果
 KP シークレットダイス
 ??=??

「お前たちが来た時点で祈りを捧げていた信者は四人。その後に五人ほど増えているのが分かる」
「合計九人か。一人頭の所要時間は」
「1つの質問に付き5分経過。ただし祈りをしている最中だ、問いかけて答えてもらえるのは一人2つまで」
「一人に2つ質問で10分か。それが九人だから90分。それでも坊やたちの方がまだかかるか」
「だったら全部聞くか。二代目のことだ、全員分情報をきっちり作ってくれているだろう」
 さらりと二代目にプレッシャーをかける初代。どんな質問が飛んでくるのかある程度の予想は立ててあるにしても、九人分も準備するのは骨が折れるというのに……。だがそこで困った様子を見せるわけもなく、むしろ当然だと言わんばかりの雰囲気を漂わせる二代目はKPの鏡かもしれない。
「どういった内容で問いかける」
「現状手に入れたい情報と言われたら、殺人犯の情報と6匹の犬の行方だな。全員に同じ内容で聞きまわるぜ」
 出てこない情報まで一々伝えるのは効率的でないと思い至った二代目は出てきた情報だけを伝える。
「まず殺人事件についてだが、全員ニュースで流れていたこと以上のことは知らない」
「かすりもしなかったか……。一旦、現場付近から離れた場所を捜索した方がいいかもしれないな」
 丸一日使って何も出てこないとなると、根本から見直した方がいいのかもしれないと初代は考える。二代目お手製の地図を見返せば、まだ調べていないところは山ほどある。
「次に犬を見たかどうかについて。これに一人答えてくれる」
「ようやく引き当てたか。長かったぜ」
 やっとの収穫におっさんが珍しくガッツポーズ。地道な捜査の末に手に入れられた情報となれば嬉しさも大きい。そんな彼が手に入れた情報は“ベオウルフカフェ前で6匹の犬を見た。リードもつけていないのにしっかりと主人について行っていたから、印象に残っている”というものだった。
「……見ず知らずの人間に、リードもない状態で犬がついていくのか?」
「さてな。他にすることがないなら、教会はこれで終わりだ」
 次といえば、おっさんは間違いなくベオウルフカフェ前に移動すると言うのは目に見えている。初代と若はこの後はどうするのだろうか。
「あ、その前にさ。この教会内で調べられるところってないのか?」
 人に話を聞いて回ることばかりに集中していた初代とおっさんと違い、若は別段することがなくて暇だったため、この教会内をうろついていたことにしたいという。
「若のみ<目星>を振っていいぞ」
 時間経過は合わせるという条件で、教会内をうろついていたことを許可された若。何か見つけることは出来ただろうか。

 何を見つける?
 若 目星25
 1D100=25

「うおお! 成功だ!」
 妖怪一足りたと喜ぶ若。やる時はやるもんだ。そんな彼にはこの情報をやろうということで、二代目からHOが。
「……これ、今調べられないのか?」
「そこには神父がいる。確実に止められるな。それに信者も黙っていないぞ」
「何を見つけたのか知らないが焦るなよ若。まずは俺たちに情報を共有してくれ」
 一人で突っ走るのが得策でないことは先ほどの扉口前に佇んでいる少女で嫌というほどに実体験済みの初代。今は教会を後にして、情報を伝え合いながら次の場所へ行くことにするらしい。
「確か、全部伝えるならかくしかでいいんだよな」
「問題ない。HOをみせてやっていいぞ。それで三人はどうする」
「もちろん俺はカフェに直行だ。……そこで飯も食っていくか」
「もうそんな時間か。カフェで食っていくより、どっか適当な店で菓子パンでも買って図書館組にも差し入れしようぜ」
 若に渡されたHOを二人が目を通しながら今後の展開を語る。差し入れと聞いた若が何かをひらめき、そして少し気まずそうにしながら口を開いた。
「その差し入れ、俺が先に図書館に戻るついでにしてもいいか?」
「……一人で先に図書館組と合流するってことか?」
 聞き込みの前にも単独行動は避けようという意見でまとまったのに、それをしようとするのはどういうことだろうか。
「俺のPCが初代と行動してる理由って、バージルの無実を晴らすためだろ? だけどさっきの聞き込みで出てきたのはおっさんの方の情報だけだった。初代のPCは最初は犬の捜索の方を持ちたがっていたし、おっさんに同行する理由はそれで十分だけど、俺にはないんだよな」
「……言われてみればその通りだ。だったらここらで図書館に戻ったって変じゃない。むしろ、自然な行動だろうな」
「だろ? 向こうには兄貴と友達のネロ、それにあしらわれたけど気になる女もいるってなったら、そっちに行くと思うんだ」
 探偵のおっさんと警察官である初代が事件を追うのは至極真っ当なことだ。だがあくまでも若のPCは用心棒であり、一般人だ。今回はたまたま身内である兄にありもしない疑いをかけられたために協力することになったが、大本を辿れば若がこの二人と行動する理由がない。
「……そうだな。これはあくまでも遊びだが、リアルな遊びだ。遊んでいる俺たちは利己的に考えちまうが、実際に生きている奴は感情だって行動理念の1つだ。若がそうだって言うなら、俺たちには止められないな」
「なんか悪いな。ついていった割に役にも立てなかったし」
「十分役に立ってるさ。坊やのこと、頼むぜ」
「ダイナと、ついでにバージルのこともな」
 クリアすることに躍起になるあまり、作ったPCの個性そのものが活かされないというのはもったいない。
「何か手軽に食べられるものを売っている店があるかどうか<幸運>で判定しようか。それが終わったらRPを挟んで移動してもらおう」
 二代目自身も彼らに何とかして情報を拾ってもらおうとしすぎていたと反省し、肩の力を抜く。この遊びを始めた本来の目的を忘れないように……。

 近くにスーパーは?
 若 幸運60
 1D100=94

「あっ」
 せっかく格好良かったのにこの出目である。ダイスの女神よ、そんなにも若がいいことを言ったのが気に入らなかったのか。結局、食べ物自体は初代とおっさんも買うだろうということで、二人も一緒に探すことに。

 近くにスーパーは?
 初代 幸運75
 1D100=62

 おっさん 幸運70
 1D100=55

「なんか納得いかねえ!」
「こればかりはどうしようもない……。とにかく、教会近くにあったスーパーで今晩食べる分を購入した。それを持って若はテメンニグル大学へ、髭と初代はベオウルフカフェへ移動だ」
 若の叫びも空しく、話は進んでいくのだった。

 HO情報
 “どこもきれいに磨かれている床だが、祭壇近くの一部分だけ何かを引きずったような跡が見て取れる。その跡は置いてある祭壇と幅が同じようだ”

──────────────────────

 2000年6月10日午後6時。神父に一礼をして教会を出れば、相も変わらず絶世の美少女は扉口に立っている。そんな少女と目線を合わせないように歩道まで出た三人はそれぞれ見つけたり聞いたりした情報を伝え合う。
「なあ、そろそろいい時間だし、パンでも買って兄貴のとこに行こうと思うんだ」
「俺とおっさんはカフェの方に行くが、一人で大丈夫か?」
「こっから10分ぐらいだし。それに疑われてるのはあくまでもバージルの方だろ。俺は心配いらねえよ」
「hmm. ……まあ、か弱い女性ってわけでもあるまい。気を付けてな」
 こうして近場のスーパーで適当なものを購入した三人はお互いの目的地へと足を進める。
 2000年6月10日午後6時20分。距離がそこまで離れていない若は一足先に大学に着く。流石に辺りも暗くなってきている時間というのもあり、いくら授業があるとはいえ学生の姿もそこまで多くない。今日の昼頃に通った廊下を歩いていけば、特に迷うこともなく図書館にたどり着く。館内はめっきり人の数が減り、読み物をしている友人たちを見つけるのにそう苦労はしなかった。まだ読んでいる途中の彼らの邪魔をするのも忍びないと思った若は彼らが新聞を読み終えるまで、自分も何か本でも読んで静かに待つことにするのだった。
 2000年6月10日午後6時30分。若と別行動となったおっさんと初代は先ほど購入したパンをかじりながらベオウルフカフェ前に到着する。店の扉にはClosedの看板が掛けられており、中に店員が残っている様子もない。周りのお店もほとんどが閉店しているためか人通りも少なく、閑散としている。

──────────────────────

 若はここで別室に移動となる。……の前に、二代目から提案が。
「PCの目線に立っての行動提案はかなり良かった。それへの褒美と言っては変だが、普段本を読まない人間が本に読むことに挑戦するというならば、成長する機会もあるだろう。ということで<図書館>を振ってみてくれ」
 若は<図書館>も初期値だが、先ほど<目星>を成功させている。えっ、<幸運>? それは気にするな。ということで二代目からのご褒美判定だ。

 暇つぶしに読書
 若 図書館25
 1D100=11

「これは間違いなく運が向いてきてるぜ」
「若が本を読むとか……目まいがして来た」
 冗談めかして頭を抱えるおっさんはおいといて、見事成功した若にはその場で<図書館>を1D3成長させて良いとのこと。また初期値成功も適用するとのことなので、セッション終了後に成長判定をもう一度行っていいということになった。

 成長判定
 1D3=2

 若 図書館25→27

「ありがとな二代目!」
 早くこの喜びを分かち合いたいのだろう。お礼を言いながら若はすぐに別室へと駆けて行った。そして壁越しに聞いてくれよという若の元気な声がかすかに漏れてくる。昔の自分にいいものを見せてもらった三人は顔を見合わせて、誰からというわけでもなく顔を綻ばせた。
「カフェは閉まっているが、カフェ前で聞き込み自体は出来るぞ。判定が厳しくなるが」
 いつまでも先ほどの喜ばしい展開に浸っているわけにもいかない。カフェが閉まっている以上、出来るのはその前での聞き込みのみだ。ただし、現在の時刻は午後6時を回っている。さらに閑散としているともなれば、人を見つけるだけでも一苦労だ。
「具体的な数値を聞いても」
「人があまりいないということと、いくら外灯などが整備されていたとしても昼間ほど明るいわけがない。ということで<目星>の半分だ」
「初代でも半分以下か……。ちなみに小数点は」
「切り上げでいい」
 店内を調べるとなれば確実に明日も出向かなければならない。それなら明日に回してしまうのも一つの手だ。
「……いや、振るぜ。俺は明日になったらおっさんとは別行動になっちまう。そうなると気がかりな犬捜索に関われなくなるからな」
「だったら俺も振り一択だ」
 初代のPCが第一発見者であるバージルと離れていられるのは、信頼のおけるおっさんの助手が一緒に居てくれているからだ。それがなければ捜査したくても出来ていなかっただろう。

 聞き込みできるかな?
 初代 目星[80÷2] 目標値40
 1D100=14

 おっさん 目星[65÷2] 目標値33
 1D100=48

「まさか決めてくるとはな……。半減しているが元値の五分の一以下か、チェックしておいてくれ」
「助かったぜ初代」
 補正がなければおっさんも成功だったのだが、たらればは言っても仕方がない。とにかく<目星>に成功した初代は帰宅途中であろう人物を引き留め、ここらで6匹の犬を引き連れた人物がいなかったか、情報を聞き出すだろう。ついでに殺人事件に関しても。
 結果で言えば見事に大当たり。“リードもなしにたくさんの犬が主人についていくのを見た。スポーツクラブのある方へ曲がっていった”という情報を手に入れることに成功した。
「順調だな。これは明日の朝一にでも解決できそうだ」
 逸る気持ちを抑えつつ、時間的にも今日の探索はこれが限界だろう。それにおっさん一人で突入したところで、犬が本当に盗まれたものなのかが判別できない。少なくともダイナの同行が必須だ。
「思ったより早かったな。後は殺人犯の足取りだけか……」
 犬捜索の方とは違い、今のところ全く情報が出揃わない殺人事件。こちらを担当している初代はどうしたものかと悪戦苦闘。
「……ここで時刻が揃うな。向こうの今後の行動を聞いてくるとしよう。お前たちもどうするか、考えておいてくれ」
 聞き込みを終えた時点で午後7時。ようやく図書館組も読み終える時間だ。ということで二代目が別室へと移動すれば、ちょうど相談したかったんだと引っ張りだこ状態に。
「この記事から得た情報を共有するのに、抜粋しても相応の時間ってかかるのか?」
「必要な部分だけに絞って伝えるなら数分でいい。全部伝えるなら……膨大だからな、丸暗記は不可能だ。何かに写していくのなら構わないが、同じ時間だけかかる」
 ですよねという様子のネロ。誰かに伝えるにしろ、重要だと思う部分を抜き出すしかない。
「とりあえず電話だ。俺は初代にかける。ネロは髭にだ。ダイナ、お前はダンテにでも伝えておけ」
 初代にはこれを伝えておけば問題ないとネロに指示を出しながら、次の行動を二代目に宣言するバージル。それに対して二代目が待ったをかけた。
「館内で電話をかけるのか? 先ほどはネロが受動側だったから仕方なかっただろうが、二度目ともなれば司書に嫌な顔をされるぞ。後、飲食禁止だ」
 別の新しい情報が出てきたときに調べ物をする機会が出てきたら、きっとここを利用するだろう。その時に<図書館>持ちが出入り禁止は痛手過ぎる。バージルは面倒だと不満ながらも、大学の外へ出て電話をかけることにした。どうせこの後は合流することになるのなら、外にいた方が都合がいいだろうとのこと。これに反対意見が出るわけもなく、四人で外へ。
「じゃあ、移動しながら私は若に情報共有」
 調べた記事から出て来たもののうち、特に気になった内容をピックアップして若に伝えていく。その間にバージルとネロは向こうの二人組に電話だ。
「……分かった。向こうの行動先も聞いてくる。すぐに呼びに来るから、いつでもこちらに移動できるように準備だけ頼む」
 別室の状況。それは二代目に手渡された過去50年分の事件が記された大量の用紙が散らばっている。もちろん、本当に50年分の記事の内容が用意されているわけではない。だが10年単位に10件ほどの大小さまざまな地元で起きた事件が書かれており、整理するのに相当四苦八苦した様子が見て取れる。
 きちんと片づけておくようにと言い残し、二代目がおっさんと初代の方へと移動した。
「お、来たな。こっちの行動も決まったぜ」
 待っていたと手招きをしながら二代目を迎えるおっさん。こちらは地図を広げ、このままアラストル警察署へ向かうと地図内の道を指でなぞりながら伝える。
「二人とも行くのか?」
「ああ、それで初代を見送ったら俺は大学に行って坊やたちと合流だ。あいつらもこっちへ向かって歩いてきてくれたら俺が一人になる時間も短縮できるしな」
「なら、初代を見送った後に電話をする、ということだな」
「それで頼む」
 それを聞いた二代目は一度目を瞑る。小さく息を吐き、そうかと呟いた後、別室で待機する面々を呼びに行く。
「……これは、やらかしたな」
「しかも相当なレベルだぜ。絶世の美少女以来の」
 殺意が高いぜ二代目……。
 これが今の初代とおっさんの心境だ。
 今の目を瞑ってからのため息は明らかに“この後何か起こる”ということを言っている態度に他ならないからだ。だが、宣言してしまった以上はもう変えられない。後は彼らの無事を祈るしかないだろう。なんて心配をされているとも露知らず、若者四人組はわいわいと別室から戻ってくる。
 さあ、ここからが正念場だ。