lost days

Opening 02 Scene Player ──── 二代目

 某国J州のとあるダウンタウンに掲げられたDevil May Cryという文字が目立つ建物がある。派手なネオン看板ではあるものの、用途としては事務所であるため外部の者が立ち入ることは滅多になく、事務所関係者もたった数名という小規模なものとなっているため、どういった業務が行われているのかを外部の者が知る由も無い。
 そんな得体のしれない事務所は内部も簡素なもので、オーナーであろう人物が使っていると推測される少し大きめの作業机と、客人を迎えるためのソファ、そしてガラステーブルのみという必要最低限のものしか置かれていない。
 ……しかし、これは表面を繕うための構造に過ぎない。
 関係者以外立ち入り禁止と書かれたプレートが掛けられている扉の奥は、一体どこにこれだけの土地があるのだと思うほどに広々とした空間が待っている。
 黒電話と一枚の写真立てが置かれたカウンターが唯一にしてまともと言えるもので、他はビリヤード台にジュークボックス。壁には数種類の剣や銃が飾られていて、とてもじゃないが普通の事務所の奥にある部屋とは言えない。
 さらに部屋はいくつかに分かれており、風呂場やキッチンなど生活感溢れる部屋から、人体を調べるための医療器具が数多く揃っている部屋など、他にもあげだせばきりがないほどにいろんな部屋が用意されている。
 極め付けには事務所メンバー各個人に一部屋ずつ設けられているという徹底ぶり。それぞれの部屋は持ち主が好きなように使っており、共通して部屋の中にあるのはベッドとサイドテーブルしかなく、他は各人たちが好きなものを好きなように置いているという、まさに自由を体現した内容となっている。
 では何故、こんなにも事務所に似つかわしくないものが揃っているのか? それは事務所だということ自体がただの表の顔であるからだ。
 この事務所を経営しているオーナー、二代目はオーヴァードである。
 彼はたまたま目の前で起きた事件で両親を亡くした、当時中学生ほどの少年を保護し、その子の両親の代わりに少年を育てた。少年を保護するに至った事件に関わった際、二代目の中には大きな理想が出来上がった。そして自らの理想を叶えるために色々と奔走し、ようやく数年前に自分で起業するにまで昇り詰めた。
 今では表の顔として事務所仕事をしながら、自分の理想を脅かす存在、ジャームが現れた時にはそちらの対応へと向かう日々を送っている。
 そして現在は日常側の仕事、事務処理に精を出していると、普段よりも慌ただしい足音が飛び込んできた。
「二代目、大変だ。どうやらこの街にジャームが流れてきたらしい」
 そう口早に伝える彼は赤いコートをなびかせ、中に黒のアンダーシャツを着て上に赤いレザーベスト。ズボンも赤色で黒のブーツを履きこなすという、中々にインパクトのある若い男性だった。
「……そうか。初代は双子を迎えに行ってやってくれるか? 俺は出かけている髭に注意を促そう」
「オーケーだ。あいつらもだいぶ腕を上げたとはいえ、血気盛んだからな……」
 作業を中断した二代目は手短に用件を伝え、自分も出かけるべく壁にかけてあった赤と黒を基調としたコートを羽織り、コートベルトをきっちりと止めた。その姿には、貫禄がある。
「いつも言っているが、出来るだけ首は突っ込むな。相手は常に格上だと思って行動するんだ」
「耳にタコができるぐらい聞かされた内容だぜ。ま、今回はあいつらの保護が優先だ。ジャームにどういった対処をするかは相手の行動次第、だろ?」
「ああ。……あいつらもお前ぐらい物分かりがいいと助かるのだが、言っても仕方がないことか」
「物分かりが良かったら確実に偽物だぜ」
 お互いに縁ある者たちに危険が迫っていることを伝えるため、二人は事務所を後にする。
 初代は双子の通う学校へ。二代目は髭と呼ぶ人物を探しに街へと出向くのだった。