The rampage peacefully

 シャキシャキと野菜のみずみずしい音。キッチンにはダイナと二代目の姿。二人はレタスやトマトを手際よく切り分け、パンに挟んでいく。そうして完成したサンドイッチをダイナは運びに行く。
 二代目はそれを手伝うことはなく、二階へと姿を消した。
 言わずとも分かっている。……寝坊助どもを起こしに行ったのだ。リビングにはすでにネロとバージルの姿。彼らの前に食事を乗せた皿が運ばれる。そして運び終えたダイナも自分の席に着く。
「おはよう。ネロ、バージル」
「おはよう」
「……ああ」
 この間の一件を経て、すぐに何かが変わったわけではない。だが皆それぞれ、ダイナの鬼気迫るような気配は消えたように感じていた。
 それと同時に、ネロは奇行に走るダイナを止めるという面倒な仕事が増えたのも事実だった。
 彼女の仲良くというベクトルはとにかくおかしい。
 幼い頃の思い出しかないダイナは、何をすれば仲良くできるのかが分からない。そして素直な性格も相まって、言われたことは何でも実行してしまう。
 つまりそれは、明らかに下心しかないダンテたちのお願いを聞いてしまうわけで、この間も……。
「男と女は共に寝ることで信頼が深まる」
 という、直球にもほどがありすぎるおっさんの下心丸見えの発言にすら……。
「分かった」
 と疑うこともせずに了承したダイナを説得するのに、ネロは苦労していた。
 そんなネロの苦労は露知らず。ダイナの奇行は今日も行われるのだった。

 二代目が過去の自分三人を叩き起こし、食事を終えた後のことだった。
 誰が言ったか知らないが週休六日制とはよく言ったもので、今日は誰も仕事がなく家にいる。
 武器を手入れする初代と二代目。読書にふけるバージル。だらだらとソファに座っている若と、店のテーブルに足を乗せて椅子に座っているおっさん。そんな彼らに文句を言いながら家事をするネロと、それを手伝うダイナ。
「ったく、なんでいつも俺とダイナが家事してんだよ。大体おっさん! ここあんたの事務所だろ!」
「適材適所だぜ坊や。出来る奴がやればいいのさ」
「自分の店ならできなくてもやれよ!」
 分かった分かったと手を振り、さっぱり動く気配のないおっさん。
 今までであれば家のことで一日がすぐ終わってしまう日々だったが、ダイナのおかげで自分の時間も持てるようになったネロは、おっさんに構っている時間が無駄だというように口を閉じて家事をする。
「これで終わり。ネロも、武器の手入れ?」
「あー、夕食までまだあるしな……。そうすっか」
 しばらくして、予想以上に早く終わった様子。
 ネロはダイナに提案されたどおり久しぶりに武器の手入れをするかと言ってレッドクイーンとブルーローズを取り出し、ガチャガチャといじり始めた。
 それを見たダイナは私もする、と短く言い放ち、腰のホルダーに引っ提げてある二丁拳銃を両手に構えた。
「そういやあんた、戦えるって言ってたけど、武器はその拳銃か?」
 ブルーローズの銃弾を入れるところを手入れしながらネロが聞く。
「この二丁、ノワール&ブランはサブ。……メインはこっち」
 そう言って黒白の二丁拳銃はしまい、一体どこから取り出したのか、ダイナはジェラルミンケースをぶんぶんと振り回しネロに見せる。
「メインはこっちって……」
「これで殴る。耐久性、打撃力共にお気に入り」
 一振り、殴る動作を取った。
 それを見ていた若が、想像以上に気になったようで……。
「だったら、俺のリベリオンとちょっとやってみないか?」
 と言い出したのだ。ダイナはそれを断ることなく。
「試し切り、付き合う」
 なんなく了承。
 ここで誰かがこいつらはバカだということに気付き、止めれば被害は少なかった。だが、残念なことに気付くのが少し遅かった。
 普通刃物を扱うなら人に向けないし、何かしら理由があって大型の刃物を使うなら外でするだろう。
 そう、まき割りを家の中でするバカはいないということだ。しかし、こいつらはまごうことなきバカなのだ。若は言わずもがなだし、ダイナも常識があるようで抜けている。
 ネロが声をかけるよりも、若の動き出しが早かった。
「Cut off!」
 そうして行われたのはリベリオンを持った若の兜割り。それを事務所の中で、ダイナに向かって躊躇いなく放ったのだ。無論、ダイナはジェラルミンケースでそれを受ける。
 しかし流石はスパーダの息子。ダイナのジェラルミンケースは一瞬にして歪な形にへこむ。
 だが、ダイナも腐っても悪魔の血を継いでいる。瞬時にこのままではまずいと判断し、へこんだジェラルミンケースの中から何かを取り出し……。
「Mow down!」
 あろうことか、それを振り回したのだ。
 若はそれを防ぐために兜割りを中断し、リベリオンで防御の姿勢に入る。
 ここまではよかった。若は自分の身を守るまでは良かったのだ。ダイナもとっさの機転でリアルセンターウーマンになることを避けた。しかし、ダイナのメイン武器が凄まじく悪かった。
 彼女のメイン武器は多節槍だったのだ。
 槍の状態ではジェラルミンケースに収納できないため、いつもは持ち手の部分を何層にも折りたたんで入れている。だが多節槍というのは、その持ち手が折りたたまれている状態でも扱うことが出来、リーチを生かした戦術が取れるのが魅力的なのだ。……であるはずなのだが、今回に限ってはそれが裏目になってしまった。
 事務所の中にある棚という棚に亀裂を入れ、あろうことかおっさんが大事にしている酒棚に槍の先端部分がぶっ刺さり、何十本という酒瓶が割れる音が響く。
 たった数十秒の出来事で、事務所の中はもう滅茶苦茶だ。
「!? 俺の酒瓶があぁぁ!」
「Be gone!」
 おっさんの叫びに真っ先に腹を立てたのはバージルだった。失せろの言葉とともに幻影剣が展開され、おっさんと若に刺さる。
「なんで俺もなんだよ!」
「おまっ、お前! なに事務所の中で暴れてんだよ! 当然の報いだろ!」
 ネロも状況を把握したようでお冠だ。
 流石の事態に武器の手入れをしていた初代と二代目も手を止め、若とダイナに詰め寄る。
「若、こっちに来い」
「ちょっ、二代目怖い! 顔怖いって! 待って、引っ張るなあぁぁぁ!」
 そうして二代目に外へと連れられて行った若。その外からは銃声がバンバン鳴り響いている。
「ダイナ……何してくれてんだ?」
 初代も顔が笑っていない。それもそのはずだ。棚だけでなく、危うく自分にも武器がぶっ刺さるところだったのだ。
 いくら相手がダイナでも怒りが沸くというものだ。
「わざと、違う。身を守ることで、頭いっぱいだった」
 おろおろと弁解するダイナ。彼女も初代の殺気に命の危機を感じているらしい。
「ジェラルミンケース、即落ちした。想定外。だからレヴェヨン、使わざるを得なかった」
 そう言ってジャラジャラと音を立てる槍を初代に見せる。
 ダイナが軽く力を入れて持ち上げると鎖でつながっていた持ち手部分が繋がり、従来の槍の姿へと戻った。
 そもそもダイナはジェラルミンケースでリベリオンと殴り合う、というところまでしか想定していなかったのだ。だからこれは不慮の事故なのだ。
「ダイナお前……、実はバカだろ!」
「バカ、それは違う。私は知識ある、よってバカとはイコールにならない」
「建物の中で武器振り回す奴をバカって言わずに、何て呼ぶんだよ!」
「故意ではない。よってバカとはイコールにならない」
「バカでもバカじゃなくてもいいから、俺の酒瓶片づけてくれよ……」
 しょんぼりと肩を落として一人酒瓶を片付けるおっさん。かなりいいガタイであるはずなのに、その背中は小さく見える。
「……ごめんなさい」
 哀愁さえ漂って来そうなおっさんの後ろ姿にダイナは謝罪し、一緒に割れたガラスを片付けるのだった。

 後始末を終え、夕飯の時間。
 幻影剣と大量の銃弾を浴びた若は体中ボロボロで、ぶちぶち文句を言いながら食事に手を付けている。おっさんは幻影剣の傷は治っているものの酒瓶をダメにされたという心の傷から立ち直れず、いまだに気分は沈んだまま。完全に罪悪感に見舞われているダイナはいつも以上に無表情。
 そんなダイナに声をかけたのは、珍しくも二代目だった。
「ダイナ、あのジェラルミンケースはどうする」
「……もう、使い物にならない。また、新しいのを調達する必要、あり」
 打撃として気に入って使ってはいるものの、どうやらああして壊れるのは初めての事ではないらしく、特に壊れたことへは興味がないように淡々と答える。
「あんなすぐにぶっ壊れるもんで戦うとか、危険じゃね?」
 ジェラルミンケースを即落ちさせた張本人、若が言う。
「好んで使っている、肯定。ただメインはこの多節槍、レヴェヨン」
 あくまでもジェラルミンケースがメイン武器なわけではなく、その中に収納しているレヴェヨンという魔具がメイン武器のようだ。
「ふーん、槍なんだし普通に持ち歩いてもよさそうなのにな」
 あまりにも奇抜な見た目をしていたり、やけに使い勝手の悪い武器ならば何かに仕舞って持ち歩くというのも納得がいく。しかしダイナのは至極普通の槍だ。なんら持ち歩いていて不自然ではない。……武器に変わりはないのだが。
「ほとんど趣味。そこに他意はなし」
「そのおかげで、俺の大事な酒はダメにされたんだがな……」
「うっ……反省している。だから機嫌、直してほしい」
 おっさんの一言にダイナは言葉を詰まらせる。
 もし仮に、ダイナがジェラルミンケースにレヴェヨンを入れていなくて、若が槍だということを分かっていたならば、少なくともあの場面で兜割りをするという選択肢は取らなかっただろう。
 もしかしたら拳銃で牽制をしていたかもしれない。そうなれば、銃を使うということで外へ出て行っていたはずだ。いや、若だからそれは断言できないが。
 だが周りのやつらも外に出てやれと促せていた可能性だってある。
 過ぎたことを言っても仕方ないのだが、もしダイナのメイン武器を何か知っていれば防げた事故なのではないかと思うと、おっさんはやるせないのだった。
「機嫌を直してほしいなら、今晩一緒に寝てくれ」
「それをすると、今度はネロの機嫌が悪くなる」
「俺と坊やのどっちが大事だ?」
「決めかねる」
「おっさん、いい加減にしとけよ……」
 ネロがバキバキと右手を鳴らしながらおっさんの方を見ている。それを見たおっさんは勘弁してくれと言う代わりに食事に手を付け、話題を若に振る。
「ま、ダイナが武器を振り回す原因を作ったのは若だ。若に弁償してもらうか。ちょうどさっき、手ごろな依頼が一つ舞い込んできたからな」
「なんでそーなるんだよ! おっさんの酒なんか知らねー」
「そういうなよ若。俺だって飲むんだからな」
 初代にまで言われ、若はかなり嫌そうな顔をしていたが……。
「あー分かったよ、働いて返せばいいんだろ」
 半ばやけくそな感じで依頼を受けることにしたようだ。
「私も、手伝う。原因は、私にもある」
 ダイナは話を聞いていて、全部若に一貫するのはおかしいと思い、提案する。
「ダイナはまだ仕事に行けねーし、気持ちだけでいいよ」
 だがすぐにその意見は却下された。
「構わないだろう。若と一緒に行ってこい」
 ……かと思われたが、二代目の言葉に今度はみんながびっくり仰天。
「え、マジで?」
「いいのか二代目? あんなにダイナは連れてくなって言ってたのに」
「ちょっ、二代目頼むぜ? 一応店主は俺なんだからさ」
「二代目と行くってならまだしも、若とか?」
「……どういう風の吹き回しだ」
 まさかのオッケーにビビる若。二代目に異論を唱える初代とおっさん。初仕事が若と一緒ということに焦るネロ。意図が読めずに睨むバージル。
 夕飯を囲んで食べているという空気とは到底思えないものだ。
「反応速度に関して文句はなかった。武器の扱いもおそらく問題ないだろう。それにここ最近、一番若と心を打ち解けているようだからな。ならば若と行った方がいい」
 確かにここ最近、ダイナはよく若と話をしている。と言っても若が一方的に話しかけているだけというか、ダイナは相変わらず何を話しても無表情なのだが……。
 だが事実として、ダイナは若と喋る回数が増えている。
 食事当番を共にしているネロと二代目を除けば、若と話している時間が最も多いだろう。
「……ありがとう、二代目。きちんと依頼、こなす」
「ああ、気を付けてな。……若、分かってはいると思うが」
「みなまで言うなって。ぜってー怪我はさせねーよ」
 そう言って食事を終え、若がリベリオンを手にする。
「ダイナもさっさと飯食って来いよ」
「もう、行ける」
 ダイナもささっと平らげたようで、レヴェヨンを掴んでいる。
「なら、ちょっくら暴れに行こうぜ」
 若の言葉にコクリと頷き返し、後をついていく。
「気を付けてな」
 呑気なおっさんの見送りを受け、ダイナは初めて依頼をこなすために街へと出かけるのだった。

 街に出るのは食材や日用品を買う時だけのダイナにとって、それ以外の目的で、しかも夜の街を歩くというのは何もかもが新鮮だった。各家庭から漏れる光と、お月さまによって照らされる街並み。太陽の光とは違う、優しい光にダイナはそわそわしている。
「そんなにうろちょろしてっと、はぐれるぜ?」
「気を付ける。……そう言えば、依頼内容」
 若の声にきちんと反応し、今日の仕事について聞く。ダイナにとっては初の仕事内容だ。気合も入る。
「あーっとな。今日はなんか、霊感のある娘が友達の家に泊まりに行ったから、悪霊に取りつかれないようにしてほしい。とかいう依頼だぜ」
「……悪魔じゃなくて、お化け退治?」
 これにはダイナもガッカリ。
 何が悲しくて、お化けから娘を守らなくてはいけないのだ。存在しないのだから、守る必要がどこにあるというのだ。
「おっ……おっさんは、どうして悪魔が関係ないのに依頼、受けた?」
 この間なんて、せっかく来た仕事を『餓鬼のお守は勘弁だ』と一蹴していたのを見ている。結局ネロに怒られ、渋々行っていたようだったが。
「いい加減呼び慣れろよ……。なんか、引っかかったんだとよ」
「がんばる。……それで?」
「そんだけ」
「……そう」
 おっさんの仕事を選ぶ基準はとにかくひどい。
 流石に悪魔絡みの仕事を断ることはしないのだが、表向きは便利屋なので、まあその、なんでそんなのしなくちゃいけないの……みたいな依頼もやってくるのだ。
 そう。今回みたいな依頼が。
 だが当人たちにとってはもう一大事なわけで、こうして便利屋を頼りに来るわけなのだ。
 そこでおっさんが受ける受けないの大きな基準は気分だ。気分が乗らなければどんな内容のものでも突っぱねるが、機嫌がいいと良く分からないものでも引き受ける。そしていつもネロにこっぴどく怒られている。そんなわけで、今回も訳の分からない判定基準をすり抜け、こうして若とダイナが犠牲となったのだ。
「せっかく合法で、レヴェヨンを使えると思ったのに」
 背負っている槍を触りながら嘆くダイナ。
「ま、適当に監視して切り上げりゃいいだろ」
 若もはなからやる気はないようで、完全にだらけモードだ。
 そうこうしている内に噂の娘が泊まっているという友人宅に着いた。
「お泊りってなら、友人の部屋で女子トークってか?」
「どうやって監視する?」
 家の場所までは教えてもらっていても、間取りまで知るわけない。ダイナはどうするのかと聞くが……。
「適当でいいだろ。なんかあったら悲鳴でも上がるさ」
 そう言って若はそこら辺に腰を下ろし、月を見上げてボーッとしだした。ダイナもそれに倣うように若の隣に腰を下ろし、月を見上げる。
「どうだ、俺たちとの生活。少しは慣れたか?」
「ダンテがたくさんいる。そのことには、慣れた。生活内容も、文句なし。コミュニケーションはまだ……上手く取れていないのが何人か」
「あー、バージルとか?」
「肯定。彼とは一番、距離が縮まない。次点でおっ……おっさん」
「おっさんがか? 二代目って言うかと思ってた」
 若としては、おっさんより二代目の方が苦手らしい。
 まあ、飄々としている人物とガッチガチに凝り固まっている人物、どちらが話しやすいかと言えば前者だろう。
「二代目とは当番の時、少し話す。ネロも同じ。年も近いし、気を使ってくれている。一番親しくできていると思う」
「俺はまだまだってか」
「ネロの次に仲良し、そう思ってる。年が近いの、大きい。後は、話しかけてくれるの、若がダントツ。とても、助かってる」
 ポツポツと一生懸命言葉を並べるダイナ。
 こちらの世界に来てから急に話すことが増え、ぼちぼち文章として話せるようになっているが、まだまだ単語をぶつ切りにする喋りは抜けきらないようだ。
「おっ、おっさんはその……あだ名が、失礼な気がして、躊躇う。後、よく夜のお誘いをされる。ネロがキレる。大変」
 ダイナは決して知識がないわけではない。そういった行為をしたことはなくても、内容は知っている。だが、そこに善悪の区別がないのだ。
 彼女の思考回路は単純明快。
 良いことはしても良い。悪いことはしてはいけない。たったこの二つで物事を判断している。
 そのため、特定の条件下ならばしても良い、などの何かが条件に付くことへの対応力がまるでない。だから先ほどもネロに、ダイナは若と同レベルのバカと言われたのだ。
「そうか……。ま、最初は面食らったけど、今はもう仲間だって思ってくれてるんだろ?」
「一緒に過ごしてる皆、私と対等。だから仲良し、なりたい。がんばる」
 今のダイナの一番大きな目標を聞き、若はホッとする。
 最初に言われた言葉は、若にとってはかなり辛かった。
 若たちにとって知らない相手ではあったが、相手は自分たちのことを知っているのだ。そんな彼女が自分の人生全てを投げ捨て、ただ駒として使ってくれと言ってきて、気分がよくなる奴なんてそうそういない。もしいるとすれば、そいつはとんでもない畜生だ。
 だが今は考えを改め、毎日こうして仲良くなるために喋り慣れないのを苦にせず、一生懸命努力してくれている。それが若は嬉しかった。努力の方向に関して言えば、かなりずれているが。
 なんて話し込んでいると悪魔の気配がした。ダイナもそれに気づいたようで、二丁拳銃を取り出している。
「若、どうする?」
「……派手にいくか!」
「了解」
 若の辞書に穏便という二文字はない。ダイナの辞書に止めるという三文字はない。
 悪魔の気配がした方に若はエボニー&アイボリーを。ダイナはノワール&ブランを構え、じっと待つ。
 1秒、2秒……。
 その時、依頼対象の家の中から女の子の笑い声が、微かに家の外へと漏れた。
 刹那、二人は同時に引き金を引く。四丁による乱射音が住宅街に鳴り響けば女の子たちの笑い声は一瞬にして悲鳴に変わり、町に住む住人達も何事だと騒ぎ始めた。
「ダイナ、人が来ると面倒くせえ。さっさと片づけるぜ!」
「異論、なし」
 ダンテは手早く武器を変え、エボニー&アイボニーでハチの巣にした悪魔にリベリオンを持って突撃する。ダイナもそれに負けじとレヴェヨンを掴み、持ち手部分をばらしてリーチを伸ばす。
「Stinger!」
「Get out!」
 二人の鋭い声とともに、ハチの巣状態の悪魔はさらにバラバラに切り刻まれる。悪魔は声をあげる暇もなく、砂とも灰とも取れないものへと崩れ去る。
 ダンテはそんな悪魔に見向きもせず、何事もなかったように剣を背中に戻す。ダイナも持ち手部分を元に戻し、同じく背中に引っ提げる。
「終わりだ。とっとと帰ろうぜ」
「任務、完了」
 住宅街からはいまだに何だどうしたと人々が騒いでいる。その中を二人は悠然と歩いて帰路に着くのだった。

「I’m home.」
「……ただいま」
「おかえり、若、ダイナ」
 若につられる様にダイナも家に帰った挨拶をすれば、ネロが一番に迎えてくれた。
 買い物のときも家に帰ればもちろんただいまと言うが、その時にかけてもらう『おかえり』とはまた違う気がして、ダイナは照れ臭そうにしている。
「帰ったか。……どうだ、仕事はうまくいったか?」
「ああ、ダイナも俺も、怪我一つないぜ」
 若は得意げに、今日の仕事の話を初代にしている。
「ネロ。若は、すごく強かった。みんなは、もっと強い?」
 ダイナは今回の仕事先で、初めて若の強さを目の当たりにした。他の皆も若と同じか、あるいはそれ以上なのかと気になるようだ。
「当然だろ。な、おっさん?」
「ああ、若と一緒にされちゃ心外だぜ」
「だとさ。ま、俺も若と大差ねーけど」
 ネロもみんなと仕事は一通りしているようで、やはり彼らと比べると若と自分はまだまだだと感じるところがあるようだ。
「そう。……なら、私が一番弱い。これからは自重する」
 その言葉に驚いたのは意外にも初代と二代目。
 初めて依頼をこなして帰ってきたから、勢いづいてもっと仕事をくれとねだってくると考えていた。そのため、ダイナの予想外な対応に、嬉しいはずなのに微妙な反応しか返せなかった。
「えらくスマートな返事だな。なんかあったか?」
「……? 何も。若の一挙手一投足に、無駄がなかった。私は、二回ほどミスをした。若がいなかったら、そのミスは重大なものだったかもしれない。仕事は……悪魔と戦うということは、私が思っていた以上に危険。それを改めて感じた。……前の世界でも、体験してたことなのに」
「ミスしてたか? ……あー、そういや、銃弾一発と槍の斬撃一発外してたな」
 若の言葉にコクリと頷き、肯定する。
 ダイナも半人半魔で、こちらに来る前の世界では悪魔たちが跋扈する中を生き抜いてきた。生き残っているということはすなわち、危機管理能力や戦闘能力が高いことを意味している。そんな彼女でも、油断をすれば命を落としかねない危険な仕事なのだ。
 ほんのしばらくの間、戦地に身を置かなくなっただけでも感は鈍る。それをひしと感じたダイナは依頼をくれというのを自重するという結論に至ったようだ。
「ダイナ。そうやって己を知り行動を制限することも、自分を守るということだ」
 二代目の言葉に最初はキョトンとしたダイナだったが、なんとなく二代目の言いたいことが分かったようで。
「なら、前に言われた二代目の言葉、今出来ている。……これからは、依頼に連れて行ってもらえる?」
「無論だ」
 二代目からのお許しを貰い、ダイナの表情が明るくなった。
「どういうことだよ二代目。それじゃ依頼から離れてねーじゃん」
「そうじゃないぜ、若。ホントお前は分かってねーな」
「じゃあ初代は分かったのかよー!」
「当然」
 無鉄砲に依頼をよこせと言わなくなったことは十分な成長なのだが、結果としてそれはダイナも依頼についていくことになるわけで。そこがまだよく分かっていない若は初代とギャーギャー言い合いに。
 そんないつものような光景にクスっと笑うダイナはまた一歩、今日は若のおかげで皆との距離が縮まったようだ。