昨日の依頼内容はともかく、その後のダンテとのやり取りは本当に恥ずかしかった！
今まで知り合った男性は、みんな大人しい感じの人たちばかりだったから……。
そういう意味で変わり種と言えば、涼太もそうか。あそこまでチャラい……じゃなくて、
明るい男性は初めてかも。……男性、でいいのかな。見た目はそうだし、いいか。
後はヤタガラスの窓口もテンション高かったな。あれ、私の周りの男性、全然大人しくないね。
まぁ……連絡先はお互いに交換したんだし、ダンテが困ったことに巻き込まれたら、助けたい。
これは本心。……今はそれでいい、よね。
「あーっ！ ダイナってば、仕事先で男の連絡先ゲットしたんスか！？」
「昔に１、２回一緒に仕事をしたことのある人だよ……」
「えー、なんか怪しいッス」
「腕力で勝てないという恐怖を味わってのゲットですけどね？」
「暴力反対ッス！ ダメッスよ、そんな男に引っかかっちゃ！」
「いや、こういう業界ですし、仕事だったから……。
だけどまぁ、私も女なんだってのは、嫌でも実感させられた……」
「何されたんスか！？」
「んー……。いや、何もされてはいないですけど」
別に負けた腹いせに殴りかかってきたわけでもない。
というか私から仕掛けちゃったようなもんだったし……。
それでもこうして連絡先を交換してもらって、五体満足でここにいれるのは、
間違いなくダンテの厚意があったからだ。
「まぁ、幸福の追求は大事だから、ダイナが嫌じゃないなら、何も言わないッス」
「そこら辺は、もう少し余裕ができたら考えてみますよ。じゃあ、マリア」
「支度は済んでおります。今日は何をなさいますか？」
「とりあえずはまた２、３日、異界篭りしようかなと。
まずは私のレベルをもうすこし上げないとね。
【自分より弱いサマナーに従う悪魔は、そうそういない】から」
「順当なところかと。何か道具などは用いられますか？」
「今回もマグネタイトを多めに。
仲魔をフル稼働させたいし、野良悪魔との会話で交渉材料にもなるから」
「かしこまりました」
「では、マリア。涼太をお願いしますね。
仲魔の皆さん。今回も地獄巡りです。
……では、行きましょう」
前より……敵の数が多いっ！
「《マハザン》！」
ダメだ、全然減らない……！
「（──っ！ ヤバ……）」
「はっぁ！ ぐっ……」
「……！ ダイナ！ 大丈夫ッスか！？」
「あっ……りょ……た……、マリア……」
「ご無事で何よりです」
「そ……っか。仲魔たちがここまで連れ戻して……。ありがとう、皆……」
「もう、あんま無茶しないでほしいッス！」
「しなくていいようになるための訓練だから……」
失敗はしちゃったけど、それでも全く身になってないわけじゃない。
死なない程度に、もう少し頑張らないと。
「今回のことは次回に生かすとして。次週あたりからは【人材集め】もしないと。
【３人目の人材を加え】、ちょっと【資源を費やせ】ば、
一層に関してはほぼ確実に攻略できるレベルにはなったでしょうから」
「たったそのためだけに２週間かかるあたり、本気で規格外のダンジョンと、
言わざるを得ませんが……」
「乗り掛かった舟だからね。やれるだけやらないと。
さて、今日は妖精郷に顔を出そうと思います。
一番迷惑かけていますから、早めにもう一度挨拶しておきたい。
後は、依頼の黒子テツヤ君なる人物のことも聞き込めたらな、と」
「分かりました、それでは早速準備をして参りましょう」
「２週間ぶり、といったところッスかね。
この間の依頼、きちんとこなしてくれて助かったッスよ」
「いえ、こちらこそ色々と助力して頂き、ありがたい限りです……ティーダ王」
「それで、本日はどういった用件ッスか？」
「あ、その……異界の経営って思っていた以上にやはり、色々と要り様でして……。
何か適当な依頼を回していただけたら……と」
「なるほど、依頼に関してはユウナに準備させるッス」
「少しお待ちくださいね」
「ありがとうございます」
黒子テツヤ君に関しては、依頼を受け終わった後、帰り際にさらりと聞くぐらいにしておこう。
流石にガイア教が嗅ぎまわっているというのを感ずかれるのはまずい。
「ただまぁ、すこし特殊な状況ッスから。
異界経営の方、うまくきれいに解決できることを祈ってるッス」
ユウナ女王様から話は通っている……と。
それでも夫妻そろって見守ってくれると判断して頂けたのであれば、
なんとしてでも応えたいところ。
「お待たせしました。こちらから受けていただきたい依頼は１件。
他は……こんなところでしょうか」
『家出.少年の引き取り拒否』『もりのあくまさん』『宴の準備』の３つか。
「この、家出少年というのは……？」
「あぁ、それは黒子テツヤっていう男の子ッス」
黒子テツヤ！？ 妖精郷辺りにいるっていうか、もう妖精郷に入ってるってこと？
ということは、フリーのデビルサマナー？ 見た目はメシア教っぽいと聞いたけど……。
この夫妻がメシア教の人物を必要以上に保護するとは考えにくいけど……、どうする？
「悪魔を招くタチみたいでして、かと思えば妖精とあっさり仲良くなったりして。
今時珍しく、ほんとうに単なる対話で、COMPもなしに妖精郷まで入り込んじゃったの」
「それは、また……。随分と珍しい素質で」
「それで、家には帰りたくないって言うし、妖精たちにも気に入られていたッスから。
俺たちも遙か古の時代が懐かしくなって、ついCOMPを与えて客分として置いていたんスけど……」
「メシアの過激派が、『うちの関係施設の子だから引き取りたい』と。
はい分かりました、とは言えませんよね？」
「当然ですね。あっさり膝を屈して見せたら次から次へ、どこがどんな要求をしてくるか」
「そういうわけで、話をつけて欲しいッス。あるッスよね？ 過激派主要人物との面識」
「縁、切ったんですけどね」
「色々便宜をはかってあげてるんスけどね？」
苦しい所をついてきますな……。
実際、頭が上がらないぐらいのどでかい爆弾を隠してもらっている。
「とりあえず……。他の依頼に関しては、身内のもののようで？」
「安全は保証する。割に合うかは保証しかねるッスけど」
「それでは、どれを受けますか？」
「そうですね……」
最初の依頼は、受ければ黒子君を探しやすくなるメリットもある。
その代わり、メシア教過激派の主要人である“彼”と、また顔を合わせることになる。
だが、妖精郷には多大な借りがある。そしてその妖精郷からの私を指名した依頼だ。
……無碍には、出来ない。
「『家出.少年の引き取り拒否』『宴の準備』の二つを」
「ありがとう。それじゃ、依頼の詳しい話は黒子本人に直接訪ねてくれッス。
これが黒子の連絡先。黒子の方にはこっちから連絡を入れておくッス」
「ありがとうございます。では、後ほど改めてご紹介いただければ。
それで、宴の依頼の方は……」
「あぁん？ お客さん！？ いっぱい来るよ！ ドワーフが作った武具や、集めた魔石なんかがある。
どこかで換金して酒に換えてくれ、差額がそっちの儲けだ」
！？ だからなんで最近出会う男性はこう、存在というか異様にキャラが濃い人たちばかりなの！？
「あっ、がんばらせていただきます……。お酒ということは、おつまみは？」
「あんかけチャーハン！」
それはおつまみではない。まぁ、資材は頂いたし、いっちょお酒集め、行ってきますか。
「つ、疲れた……デパート駆けまわった……。もう動けない……」
「仕方ないね」
「と、とりあえず依頼は達成……ってことでいいのかな？」
「ああ、すぐに報酬を用意しよう」
……なんだかんだ、妖精たちも楽しそうに宴してる。
たまにはこうした平和な輪に入って、心が荒まないようにしないと、ね。