序章

──初めに、神は天地を創造された。

地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神の霊が水の面を動いていた。

「──問おう。お前は何を志向する?」

(私は……、私は【光】を志向します)

「そうか。お前は、善なる光を志向するか」

──神は言われた。

「光あれ」

こうして、光があった。

神は光を見て、良しとされた。

神は光と闇を分け、光を昼と呼び、闇を夜と呼ばれた。

夕べがあり、朝があった。

──第一の日である。

「──再び問おう。お前はどこに安らぎを見いだす?」

(私は、【秩序定められた地】にて、安らぎを見出します)

「そうか。お前は、秩序と規律のうちに安らぐか」

──神は言われた。

「水の中に大空あれ。水と水を分けよ」

神は大空を造り、大空の下と大空の上に水を分けさせられた。

そのようになった。

神は大空を天と呼ばれた。

夕べがあり、朝があった。

──第二の日である。

「──さらに問おう。 お前の得意とすることは、幾つだ? 多ければ多いほど、一つ一つは力を失う」

(私が得意なことは、【一つ】です)

「そうか。一つが得意か。鋭く研がれた、しかし折れ欠けやすい刃のようだな」

──神は言われた。

「天の下の水は一つ所に集まれ。乾いた所が現れよ」

そのようになった。

神は乾いた所を地と呼び、水の集まった所を海と呼ばれた。

神はこれを見て、良しとされた。

──神は言われた。

「地は草を芽生えさせよ。種を持つ草と、それぞれの種を持つ実をつける果樹を、地に芽生えさせよ」

そのようになった。

地は草を芽生えさせ、それぞれの種を持つ草と、それぞれの種を持つ実をつける木を芽生えさせた。

神はこれを見て、良しとされた。

「──さらに問おう。

 力もて地に鍬を振るう農夫。

 弓もて野に獲物を追う狩人。

 杖もて天に恵みを乞う司祭。

 お前ならば、いずれを好む?」

(私は、【杖もて天に恵みを乞う司祭】を好みます)

「そうか。杖もつ司祭を好むか。剣を振るう剛力でもなく、矢を放つ俊敏さでもなく。

 曖昧なるちからを御する知恵こそが、お前の武器か」

夕べがあり、朝があった。

──第三の日である。

「だいぶ、お前のことが見えてきたな」

──神は言われた。

「天の大空に光るものがあって、昼と夜を分け、季節のしるし、日や年のしるしとなれ。天の大空に光るものがあって、地を照らせ」

そのようになった。

神は二つの大きな光るものと星を造り、大きな方に昼を治めさせ、小さな方に夜を治めさせられた。

神はそれらを天の大空に置いて、地を照らさせ、昼と夜を治めさせ、光と闇を分けさせられた。

神はこれを見て、良しとされた。

夕べがあり、朝があった。

──第四の日である。

「──では、今度は少しだけ変わった問いかけをしてみよう。自然界に存在する現象で、お前が好むものはなにか?」

(私は……、【竜巻】が好きです)

「竜巻! 鋭い風に切れぬものはない。それこそがお前の好む現象か。ははは、少々意外性があるな」

──神は言われた。

「生きものが水の中に群がれ。鳥は地の上、天の大空の面を飛べ」

神は水に群がるもの、すなわち大きな怪物、うごめく生き物をそれぞれに。また、翼ある鳥をそれぞれに創造された。

神はこれを見て、良しとされた。

神はそれらのものを祝福して言われた。

「産めよ、増えよ、海の水に満ちよ。鳥は地の上に増えよ」

夕べがあり、朝があった。

──第五の日である。

「──お前自身に対しては、最後の問いだ。

 俊敏に大空を飛ぶ鳥たち。

 巨体もて君臨する獣たち。

 多く生まれ多く死ぬ虫たち。

 ……好むのはいずれだ?」

(私は、【多く生まれ多く死ぬ虫たち】を好みます)

「虫たちは、多く生まれ、弱きがゆえに多くが死に、しかし生き残った運良きものが再び次の生を紡ぐ。

 風を好むにしては面白い思考だ」

神はそれぞれの地の獣、それぞれの家畜、 それぞれの土を這うものを造られた。

神はこれを見て、良しとされた。

「──次に問うのはお前のことではない、お前の友人についてだ」

『その人を知りたければ、その人のつきあっている親しい友人が誰なのかを知れば、

 ひとつやふたつは、その人の本性を垣間見られるだろう。
 
 ──少なくとも人としての種類はわかる』

「詩人アンドレ・ブルトンの言葉だ、なかなか良いことを言うじゃあないか」

「明るく社交性のある軽やかなひと。

 物静かで落ち着きのある厳かなひと。

 物柔らかで親切な、心配りのひと。

 お前が友人として、付き合った覚えがあるのは?」

(私は、【物静かで落ち着きのある厳かなひと】と、付き合った覚えがあります)

「なるほど、物静かで落ち着きのある厳かなひとか。

 どうやらお前という人間は、なかなか良い人間関係を築いているようだ」

──神は言われた。

「我々にかたどり、我々に似せて、人を造ろう。そして海の魚、空の鳥、家畜、地の獣、地を這うものすべてを支配させよう」

神は御自分にかたどって人を創造された。神にかたどって創造された。男と女に創造された。

神は彼らを祝福して言われた。

「産めよ、増えよ、地に満ちて地を従わせよ。海の魚、空の鳥、地の上を這う生き物をすべて支配せよ」

「──もう少しだけ問うてみよう。

 傷つき疲れたものを癒す、優しき医師。

 埃を払い拭って清める、謹厳な清掃者。

 黙々と己の仕事をこなす、寡黙な大工。

 お前の友人は、どのイメージに合致する?」

(私は、【寡黙な大工】のようなイメージを持ちました)

「そうか、大工か。……まさに仕事人と言った友人だな」

──神は言われた。

「見よ、全地に生える、種を持つ草と種を持つ実をつける木を、

 すべてあなたたちに与えよう。それがあなたたちの食べ物となる。

 地の獣、空の鳥、地を這うものなど、すべて命あるものにはあらゆる青草を食べさせよう」

そのようになった。

「──お前のその【物静かで落ち着きのある厳かな友人】に関する、最後の質問をしよう。

 その友人の、名前と外見について教えてくれないか?」

(金色に輝く甲冑に身を固めた謎多き乙女といった感じです。名は……マリア)

「うん、なんだって? 甲冑に身を固めた乙女? ククク、随分と堅物そうだなぁ!」

神はお造りになったすべてのものを御覧になった。

見よ、それはきわめて良かった。

夕べがあり、朝があった。

──第六の日である。

「ずいぶん、長々と時間をとらせちまったな。これでお前という人間の、かたちは見えたわけだが……
 
 ……ん、おっと、こりゃあいけない。一つだけ、もっとも大切なことを聞き忘れていた。

 そうだよ、こいつを忘れちゃしまらねぇ」

『In the beginning was the Word.』
  (はじめに、言葉ありき)

「だからこそ、これだけは聞いておかなきゃな?

 お前の『名前』──

 お前をお前として在らしめる、『ことば』を教えてくれ」

(私の名前は────……)

「──…………。

 ダイナ。ダイナ、か。──いい名前じゃあないか。

 その行く手に立ち塞がる障害は多いだろうが……

 その『ことば』に守られれば、必ずや願うところを成し遂げられることだろう」

天地万物は完成された。

第七の日に、神は御自分の仕事を完成され、第七の日に、神は御自分の仕事を離れ、安息なさった。

「『俺』はもう休む、が。
 
 お前が己が歩むべき道を見いだせるよう、ささやかながら祈っておこう──」

この日に神はすべての創造の仕事を離れ、安息なさったので、第七の日を神は祝福し、聖別された。

「ダイナよ! 『God bless you』──神の祝福がありますように、だ!」

これが天地創造の由来である。

ダイナ。 『天塔』をめぐるお前の道行きは、今まさに──。