ソル・シエール 第1話

「待たせたな。」

青色を基調としたローブに身を包んでいる男がそういった。

「・・・貴方、私が怖くないの?」

「初めて出会った時も、そう冷たくあしらわれた気がするな。」

彼女の右肩からは天使の翼が、左肩からは悪魔の翼がそれぞれに生えており、痛いのだろうか、顔をしかめている。しかし男はそんなこと気にも留めず、手を差し出す。

「ダメよ。今ならまだ間に合う・・・早く帰りなさい。」

「入った時点でもうバレている。無駄口をたたく前にさっさと行動しろ。」

フリルのついたゴシックワンピースに身を包んだ彼女を軽々と抱き上げる。

「ちょっと!私はついていくなんて一言も・・・!」

「お前に拒否権はない、俺の言うことだけを聞いていろ。」

「・・・随分と偉くなったのね、ギーシェ?」

「遅くなって済まなかったな、ラクア。」

ラクアを抱え、部屋を出る。ここは10年間、ラクアを監禁し続けた場所。

「どこへ行くの?」

「飛空艇のある場所まで行く。」

「・・・作ったの?」

「まさか、そこまでの技術はさすがに持ち合わせていない。・・・着いたぞ。」

かなり近い場所にあったのか、すぐにたどり着いた。2人は飛空艇に乗り込み、禁断の地――――ホルスの翼へと発進する。もとが1人乗り用ではあるが、ラクアは150㎝前後とかなり小柄なため、少しきつめではあるが無理やり乗っている。この飛空艇自体は2度の災厄が起こる前に作られた遺産。つまり、古代文明が滅ぶ前に作られた飛空艇である。そのため、現代では再現不可能であり、この世にたった一つしかない最高の代物である。

「こんな立派なものに乗れるなんて、私は結構贅沢者かしら?」

皮肉なのか本心なのか、そこまでは分からないが、テンションが上がっているのは確かなようで、乗り込んでからずっとソワソワしている。

「いくら小さいとはいえ、あまり動くな。」

「貴方がそんなに大きくなってしまったのがいけないのよ。髪までツンツンにしちゃって。」

ギーシェの髪をいじりながらクスクスと笑い飛ばす。ギーシェは手元の操縦に集中しながらも、少し嫌がるように首を左右に振っている。そんな飛空艇の順調な空の旅も、すぐに終わりを迎えた・・・。

「!?あそこ!」

先ほどまでの態度は消え、何かに気づいたラクアは窓の外を指差す。その指のさす方向をギーシェも見ると・・・

「あいつは・・・!」

気付くのが遅れ回避行動をとる前に、空を飛んでいるドラゴンの口からはかれた火の玉が飛空艇の右翼に直撃する。大きな衝撃とともに、飛空艇は下へと落ちて行った。

 

森の奥に1台、飛空艇が大破した状態で見つかった。その中から1人、はいつくばって出てくる。

「ひどい目にあったわ・・・。」

頭を振る動作につられ、長い若紫色の髪も左右に舞う。

「・・・怪我はないか?」

「奇跡的にね。」

まさにラクアが言った通り、2人とも奇跡的に大きな外傷はなかった。

「ここは、森か。」

ギーシェは辺りを見わたす。どうやら飛空艇は崖に落ちるギリギリ手前で止まったみたいだ。崖の下をのぞき込むと、どこまでも霧が広がっていた。

「急に現れた男に誘拐されたと思えば、殺されかけるなんて洒落にならないわね?」

服についた泥をはらいながら、どこか楽しそうな表情を浮かべつつギーシェに問う。

「かなり危険を冒す結果にはなったが、これで追手も撒けただろう。」

「それだけじゃないでしょう?」

「当たり前だ、その程度のことで命を投げ出しはしない。」

その言葉を聞いたラクアは笑い出した。

「ふふ・・・、あなたはあの時から何も変わっていないのね・・・。あの時の義理でも果たそうというの?」

「そんなもののために俺は動いたりしない。」

くだらないと言わんばかりに首を左右に振ったかと思えば、グッとラクアを引き寄せ、ギーシェは言った。

「あの日以来、俺はお前以外の女に興味が出なくなった。その責任を取ってもらうだけだ。」

「・・・10年の間に、一体何が貴方をこんないけない人に成長させてしまったのかしらね。」

なんて言いつつどこか嬉しそうに、頬は少し紅潮している。それを隠すように後ろを向いていると、ギーシェに胸元まで引き寄せられ、飛空艇の陰に隠れさせられた。

「5・・・、6個体か。」

「どうしたの?」

「黙っていろ。」

そういうと飛空艇の頭付近まで来る。この先は崖になっていて、落ちたら命はない。いきなりの出来事に動揺し、それの答えを求めるために問うが拒まれる。ギーシェの顔を見ると真剣なまなざしをしており、ラクアはそれで何か悟ったのか、口を閉じ・・・

2人は崖に向かって飛び降りた―――。

 

「初めて見る飛空艇だ・・・。」

どうやら、何かの団体が見回りに来た様子だ。

「機体内には誰もいません!」

「そうか・・・、無事に脱出しているといいんだが。」

「特に怪我人や血痕等も見当たりません。おそらく墜落する前になんらかの手段で脱出したかと。」

「そうであることを祈ろう。・・・よし、ここの土地はカルル村だから、後の処理はそちらに頼むこととしよう。」

「分かりました。おーい!終わっていいぞー!」

「はーい。」

指示に従って残りの4人も機内から出てくる。

「よし、ここまで疲れただろう。パートナーはちゃんとレーヴァテイルを労わってやるように。」

レーヴァテイルとは、音を力に変える能力を持つ稀少種族である。過去に人造的に生み出された種族であるが見た目は人間と全く変わらず、基本的には女性しか存在しない。詩魔法と呼ばれる神秘の力を操り、「世界と語る」ことができる。また、彼女たちの謳う詩魔法も口や喉からの発声とは別に、詩サーバーの機能によって謳われる物であり、脳内のイメージそのままの伴奏付きで発現することが出来るのだ。

「分かってますって。」

「えー、この前も私が疲れているのに眠れないから子守唄謳ってくれって。」

「おまっ、そういうこと言うなよ!」

「そんなことしてもらってんのかよ。」

「さあ、無駄口は帰ってからだ。」

かなり恥ずかしいことをばらされてしまった隊員はパートナーのレーヴァテイルを連れ、一足先に帰って行った。それに続いて隊長や残りのメンバーも去っていった。

「・・・よく6人って分かったわね?」

「お前と会った10年前からずっと、騎士として鍛錬を積んではきたからな。それより近くにカルル村と呼ばれる場所があるらしいな。」

団体が去ったことを確認し、崖から2人が登って出てくる。どうやらここの崖はいくつか地面が割れ、それが浮遊している少し段があり、そこに降りていたようだ。

「飛空艇はどうするつもり?」

「捨て置け、乗る予定はもうないし、第一ここまで大破したものを直すほどの技術は持ち合わせていない。」

「思い切りがよすぎるというか、なんというか・・・。」

少し心配にはなるが、特に異論はない。

「行くぞ。」

2人もカルル村を目指し、歩き出した。

 

「そういえば今更だが、背中に生えていた翼がないが、どうなっている?」

「んー、どう説明したらいいかしら。急に背中が痛み出したと思ったら生えちゃう感じ。でも、一定時間でまた元に戻る。」

「予兆とかはないのか?」

「全くないわ。痛み出した頃にはもう出てくるほんの数秒前ってレベルね。」

かなりの痛みを伴うのだろう。思い出すだけで苦虫を噛み潰したような表情をしている。

「そうだわ。さっきの話の続きだけれども、これからの私たちの目的は何?」

「・・・・・・。」

答える気はないと体全体から放つオーラで伝えてくる。

「答えないなら、ついていかないわよ。」

「・・・、“ヒュムネクリスタル“。」

「ヒュムネクリスタルって、伝説の聖女が使ったと言われる、あの?」

「そうだ。その中でも“パージャ”と呼ばれる種類である必要がある。」

伝説の聖女―――はるか昔、二度目の災厄が起こった時にヒュムネクリスタルを持ち、突如現れたかと思うと災厄の元凶であるウイルスの力を弱め、戦を治めた。

「パージャ・・・、いつの日か聞いた名前ね。それが私の悪魔の血を制御することが出来るものなのね?」

「悪魔の血を制御することに関してはほぼ間違いない。だが見つかる保障がないのに加え、あいつもどうなるか・・・。」

「そう・・・。大変な旅になりそうね、ギーシェ。」

「いらぬ心配をしたようだな。」

2人は顔を見合わせたかと思うと、フッと微笑み合った。

 

森の中を歩くこと約1時間。徐々に道らしい道が見えてきた。

「・・・いい匂いがする。」

「近いところに村があって助かったな、さっきの場所はヴィオラの森というのか。」

お互いに別々の感想を述べつつも、ようやく村についたと安堵の表情を浮かべる。ギーシェは近くにあった看板を読んでいる。

「ねえ、せっかく村についたのだし、いろいろ見て回りたいのだけれども。」

「・・・、素直に飯を食いたいとは言えないのか。」

先ほどからずっと食べ物の話ばかりをしていたラクア。言わずとも腹が減っているということは察せる。

「まるで私が食い意地を張っているみたいじゃない。」

「違うということにしておいてやる。俺は先に宿を探してくるから、これで好きなものでも食っておけ。」

いくらかを手渡し、宿を探しにギーシェは行ってしまった。

「・・・行動が早いんだから。」

軽く息をはき気持ちを切り替えると、さきほどいい匂いのした屋台に立ち寄る。

「あらいらっしゃい、ここらで見かけない顔だねお嬢さん。」

「こんにちは、何を売っているの?」

「何って、見たことないのかい?たこ焼きだよ、この中にタコが入ってるんだよ。」

おばちゃんはたこ焼きを1つとり、皿にのせて中を割って見せる。

「どこかで見たことある気がするわ。それにしても本当・・・、とっても美味しそう。」

「うちのたこ焼きはそんじゃそこらのとは違うよ。どうだい、買っていくかい?」

「ええ、では1つ。」

「はいよ、これおまけしておくからね。熱いから気を付けるんだよ!」

「ありがとう。」

お金を渡して本来は8個入りだが1つおまけしてもらい9個入りのたこ焼きをもらう。屋台を出、近場にあったベンチに腰掛けた。

早速一つ、口に運んでみる。

「あ、熱い・・・。」

想像していた以上に熱く、味わう暇もなく飲み込むしかなかった。今度は反省してしっかりと冷まし、口に運ぶ。

「こんな美味しいもの、初めて食べたかも。」

独り言が漏れてしまうぐらい、美味しい。自分で買って初めて食べたという事実がさらにおいしさを引き立てているようにも感じた。

たこ焼きを食べ終わり、一息つく。10年ぶりの空、風、大地。すべてが懐かしく、新鮮に感じる。胸いっぱいに空気を吸い、空を見上げる。

「バカヤロウ!お前のせいで隊とはぐれちまったじゃねえか!」

突然、男の声が広場に響いた。声に驚いたラクアは目を大きくし、声のする方を見た。

「ご、ごめんなさい。」

「ごめんなさいじゃねーだろ!何勝手なことしてんだ!この村からろくな金ももらってねーのに仕事以上のことしてんじゃねえ!」

そう言い放った男は、一緒に居た女の子を突き飛ばした。

「うっ・・・。」

突き飛ばされた女の子は尻もちをついてしまう。

「さっさとたたねーか!」

次に男は蹴ろうとした。その時、ラクアは2人の間に割り込んだ。結果的に男の蹴りを受けることとなり、ドシャっと砂に大きなものが落ちたときに似た音が響いた。それでもラクアは立ち上がる。

「つっ・・・。女の子にひどいことするのね。」

「あぁ?誰だお前、邪魔すんな。」

「ただの通りすがりよ。それよりあなた、こんな仕打ちを受けなければならないほどのことをしたのかしら。」

尻もちをついたままの女の子に手を伸ばしながら問う。

「わ、私は・・・困っていた人がいたから助けただけ・・・。」

「それが勝手なことだって言ってんだよ!」

素直に自分がしたことを言う女の子。それを聞き、どうして男が本隊とはぐれたのか理由が分かった。そのため男は怒っているようだ。

「言いたいことは分かったけれど、そこまで怒鳴り散らすことはないでしょう?周りから見ればあなたが悪者にしか見えないわ。」

「うっせーな!大体てめー、部外者のくせにしゃしゃり出てきてんじゃねーよ!!」

男はついに怒りに身を任せ、ラクアに殴りかかる。

「危ない!!」

女の子が声を上げ、手で顔を覆った。ガッと鈍い音が耳に入る。

「俺の連れが・・・、何か失礼をしたか?」

「いっ・・・?あ・・・。」

そこには宿を探し終え戻ってきたギーシェが、男の手首を掴んでいた。

「ぐあああっ!!!て、手首が・・・折れ・・・!!」

今度は悲鳴を上げ、必死に捕まれた手首を自由にするためもがき始めるが、びくともしない。ギーシェは虫けらを見るような、冷酷な視線を向けている。

「もうやめてあげて頂戴、ギーシェ。」

「・・・命拾いしたな?」

ラクアの言葉を聞き入れ、男の手首を離す。男は後ずさりをし

「な・・・、なんなんだこいつら・・・。おい!さっさと行くぞ!!」

完全におじけついたらしく、そそくさと去っていった。

「あの、ありがとうございました。」

女の子も軽く会釈をし、男の後を追って走っていった。

「・・・10年たって、レーヴァテイルへの仕打ちはさらにひどくなったのね。」

残念そうにポツリとそういい、忘れるように首を左右に振った。

「ラクア、何故あの時避けようとしなかった。」

「ん、殴られそうになった時のこと?」

「そうだ、俺が来なかったらどうするつもりだったんだ。」

「私があんな拳、避けられるわけがないでしょう?」

口元に手をあて、上品にクスクスと笑っている。笑い終えるとシレっとした顔をしているあたり、かなり肝の据わった性格のようだ。

「目を離したら何をしでかすか、分かったものではないな・・・。」

呆れ、それでもどこか笑いを含んだように言ったように聞こえた。

「さあ、いろいろあって疲れたから、宿に案内してもらおうかしら。」

「あぁ、こっちだ。」

10年ぶりの外という広大な世界。そして何より、この地に連れ出してくれたギーシェに感謝を忘れないよう、そっと心に誓い、宿に移動した―――。

 

「・・・どうして1つしか部屋を取らなかったのかしら?」

眉をピクピクと引きつらせながらギーシェに今にも殴りかかりそうな勢いを押し殺し聞く。

「俺はそこまで金持ちではないからな。節約できるところはする。」

「えぇ、その心掛けにはとても感心するわ。でもね、節約するところを間違えているのよ!私は女で貴方は男なの、そこのところ分かっているのかしら!?」

いつもは物静かなラクアも今回ばかりは頬を赤く染め、声も少し大きい。

「何をそんなに慌てている。これからずっと一緒に居るんだぞ。」

「そうだけど・・・、そういう問題ではないのよ・・・。」

見当違いの答えが返ってきてなんとも言えない気持ちになる。

「あまり細かいことばかり気にしていると、この先身体が持たんぞ。」

「いいこと言った風にしているけれど、何服を脱ぎだしているのよ!!」

「ローブを着たまま寝ろというのか?」

「着替えるならそっちの洗面台で着替えて頂戴。」

「脱ぐためにいちいち俺にそんな労力をかけろと言うのか。」

「どこに噛みついているのよ!後裸で寝るつもり!?」

「なんだ、裸がいいのか?大胆だな。」

「あぁもう、そうじゃないから!分かった、私が悪かったわ。上は我慢するから、ズボンは履いていて頂戴!」

常識が足りないのか?露出狂なのか?はたまた自分が知らない・・・知ってはいけない性癖の持ち主なのか?突っ込みを入れている間にだんだんと疲れと諦めが募り、妥協案を出すことで最悪の事態を免れることには成功した。

「さすがに疲れたから、私はソファで寝ることにするわ・・・。」

部屋にはシングルベッドとソファしかないため、どちらかがソファで寝ることになるが、ギーシェに腕を掴まれ引き寄せられる。

「まだ何かあるのかしら。」

「肝心なことを忘れていた、今からお前の背中に術式を施す。」

「術式・・・?」

聞き慣れない単語に、ついオウム返ししてしまう。

「唐突に生える2種類の翼・・・。痛いのだろう?」

「・・・まぁ、ね。」

「完全に痛みを消すことは出来ないが、ある程度和らげることは出来る。それに村を歩いている時に発作が起こったとしても一般人程度の目ならば欺ける、効果は俺が保証しよう。」

「あら・・・。それなら術式を施してしまえば、パージャを取りに行かなくてもいいんじゃない?」

「そういうわけにはいかん。繊細な術式だからな、何かしらの力が加わるとすぐに消えてしまうし、掛けなおせる環境を必ず作れるなんてことはあり得ない。後は分かるな?」

「本当、私の血統は一筋縄ではいかないのね。」

そういうとさっさと背を向ける。元から小柄だが、その時のラクアの背中はどこかしおらしく見えた。

「なんだ、脱がしてほしかったのか。」

「え?何して・・・!」

停止の声も聞かず、ファスナーが音を立てて下ろされる。ワンピースなため、肩にかかっている布部分が落ちれば、当然そのまま下着だけになる。とっさに服が落ちるのは防いだため、前は全体的に隠すことが出来た。

「服に術式を施すと思っていたのか?」

「そういう大事なことは一番に伝えなさい。」

肝心な部分が抜けていることに不満を持つが、今は術式の方が先だと思い、これ以上の言葉をぐっとこらえる。ギーシェはそっとラクアの背中に手をあて、言葉を紡ぐ。徐々に魔方陣は大きくなり、背中全体に広がった。

「・・・よし、ここから先はお前自身が取り込むことになる。」

「どうすればいいの?」

「何でもいい、詩を謳ってくれ。」

「分かったわ・・・。」

スッと目を閉じ、しばしの沈黙が流れる。

「♪Rrha ki ra tie yor ini en nha Wee ki ra parge yor ar ciel」

ヒュムノス語。レーヴァテイルたちが詩を謳うときによく使われる言葉であり、大事な機密機関をロックするときなどにも使われる。ラクアの詩に反応し、魔方陣がどんどん背中から体内へと入っていく。

「・・・もう少しだ。」

「♪Was yea ra hymme mea ks maya gyen yeal innna ar hopb syec mea ya. ya!」

「・・・。もういい、これで術式は完了だ。」

「ん・・・、ありがとう。」

「いや、俺の方こそいい詩を聴かせてもらった。」

「分かったの?」

「本格的に意味を言えといわれると無理だが。」

「ふふ、じゃあ今度こそ私は寝るわね。」

背中に手を伸ばしファスナーを閉じようとするが、拒まれる。

「ベッドに入れ、一緒に寝てやる。」

「本気で・・・言っているの?」

ここまで来ると、恥ずかしいを通り越して常識を教えてあげなくてはいけないという謎の使命感を覚える。結局この後、ラクアは下着姿、ギーシェは上半身裸と、どう考えてもアウトな格好でシングルベッドに入り、お互いに正面を向いて抱き付いて寝ることになった・・・。

「ギーシェの肩幅って、大きいのね。」

「ラクアが小さいだけではないのか?」

ギーシェは178cmと平均的な身長より少し大きいぐらいではあるが、10年以上騎士として体を鍛えてきていたため、身体つきはかなりいい方だろう。

「どうしてギーシェは、騎士なのに魔法を選んだの?」

「・・・レーヴァテイル以外使えないと言われ続けてきた魔法を天性的に使える人間が、これを使わないという選択肢が何故出てくるのか、俺には分からん。」

ギーシェはレーヴァテイル以外使えないと言われ続けた魔法を使う、この世にたった一人の魔導師である。基本的に騎士団は前衛を務める男性と、詩を謳うレーヴァテイルでチームを作る。それがもっとも効率が良いと言われているからだ。しかしギーシェは誰とも組まず、一人でずっと戦い続けてきた。最初はそれこそひどい言われようだった。魔法は詠唱時間の関係上、どうしても発動までに時間がかかる。ギーシェの戦闘スタイルはまさにレーヴァテイルと同じポジションであるが、レーヴァテイルより劣る魔法を使えても意味はない、それよりも剣を手に取りレーヴァテイルを守れ、と何度も言われ続けた。だがそれでもギーシェは諦めることなく、ずっと己の魔法を鍛えつづけた。その結果、今ではレーヴァテイルにも劣らない、強力な魔法を使うことが出来る。さらに彼は独自の方法を確立し、詠唱しながらもある程度なら体を動かすことが出来るまで上達した。

「そうね。私、そういうのとっても好きよ。」

「雑談はこれぐらいでいいだろう、今日はゆっくりと休め。」

「ふふ、そうさせてもらうわ。・・・おやすみなさい、ギーシェ。」

「おやすみ。」