「ララク、明日はハロウィンよ!」
「ハロ……ウィン? なんですかそれ?」
「いっぱいお菓子がもらえる日よ!」
「お菓子がもらえるんですか!?」
お菓子という甘い誘惑についつられる。
「でも、貰えるって言っても、誰もがくれるわけじゃないわ。私の言うとおりにするのよ? そうすれば絶対もらえるんだから!」
「は、はい!がんばります!」
ハロウィン当日の朝。
「真ちゃんおはよ。あれ、ララクちゃんは?」
いつも一緒に登校しているはずなのに、今日は彼女の方がいない。高尾は眉をひそめながら緑間に問いかける。
「用事があるから先に行っててくれという手紙があったのだよ」
「用事……? あー、なるほどね、了解」
「まぁいい、行くぞ」
緑間は手紙の内容に興味がない様子で、そそくさと歩いていく。用事という言葉で高尾は察し、学校でララクが仕掛けるのだとばかり思っていたのだが……
「なんかあると思ってたのになあー」
学校からの帰り道、高尾がそう呟く。教室内では特にいつもどおりで友達と話したり、部活を見学していったりと、これといったアクションはなかった。
「何かって、何ですか?」
「あーいや、こっちの話。……あーっ!」
次に高尾は声を荒げた。
「ど、どうしたんですか?」
「高尾、騒がしいのだよ」
少し不快そうに眉をしかめながら、緑間は高尾に注意する。
「やっべー! 今日はちょっと大事な用事が……ワリ! 先に帰るわ! また明日!」
「え、あ、はい。また明日……」
言うや否や、ものすごい速度で走り去っていった。気が付けば2人きり。
「(こ……これは……チャンス……)あの、真太郎さん」
緑間を見上げる。身長差のそれで、どうしても上目遣いになってしまう。
「なんだ」
「その……もし時間があればでいいんですけど……、私の家に寄っていってほしいな……なんて……」
「なっ……! か、構いはしないが……どうしてなのだよ」
「本当ですか!? わーい!」
「人の質問を無視するのはやめるのだよ」
とても嬉しそうなララクは、もう家に来てもらうことで頭がいっぱいになり、緑間の問いは右から左状態だった。
それに対して緑間は、いくら隣の家とはいえ、彼女の家に上がるというのは緊張以上に、ある感情が抑えられるか不安になる。
そんなことを考えている間に家についたようで……
「さ、早く上がってください」
緑間の手を引き、半ば強引に連れ込む。
「ま、待つのだよ」
「早く!」
ぐいぐいと引っ張られ家に入ると、たくさんのぬいぐるみがソファや箪笥の上など、いたるところに置いてある。
「これは……」
1つくまのぬいぐるみが視界に入り思い出す。
いつの日か、ラッキーアイテムで買ったあのぬいぐるみだ。
「1人は寂しいから、たくさんぬいぐるみを置いてるんですよ」
うさぎのぬいぐるみを1つ抱きかかえながら言う。
「それで? 目的はなんなのだよ」
「さすがに分かっちゃいました……?」
ゆっくりとララクが緑間のそばに近寄る。
「真太郎さん、トリックオアトリート! お菓子をくれないと、イタズラしちゃいます!」
そう言うと目を瞑り、うさぎのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、口を軽く上げ上を向く。
「いい?大前提として、一番親しい人じゃないとお菓子はもらえないの。だからもらうなら、緑間におねだりしなくちゃいけないのよ」
「真太郎さんにおねだり……ですね」
「そう、そのためにまず明日は1人で登校して、少し距離を置くの。そうすればあの緑間といえど、いつもと様子が違うなって気づくはずよ。そして帰りはいつも通り一緒に帰って、家に呼ぶのよ」
「えっと……いつもと違う環境を作ればいいんですか……?」
「そうそう。家に呼ぶのは2人きりになるためよ。そして決め手は……」
「決め手は……?」
「(うう……、言われた通りに目を閉じて、口を軽く開けてはいるんですが……お菓子はもらえるのでしょうか?)」
篠菜に言われたことをそのまま再現し、お菓子を貰うことで頭がいっぱいのララク。
彼氏の立場としては、こんなことをされたら理性なんて飛ぶわけで
「誘っていると捉えていいんだな? 悪いがもう、我慢の限界なのだよ」
「……ふぇ?」
こうすればお菓子がもらえるとしか言われていないララクには、緑間の言っている意味が分からず、うっすらと目を開ける。
「ん!? ふぅ…………ぷはっ!」
突然の出来事に思考回路が追いつかない。
「Trick or treat. お菓子をくれないとイタズラするのだよ」
「あ……う……? お菓子は私がもらうんです!」
「まさか、貰うだけで自分はあげなくてもいいとでも思っていたのか?」
「え、あ……そっか」
少し強めに言われたこともあり、素直に納得してしまう。
「なら、お仕置きをしないとな」
「お、お仕置き!? イタズラじゃ……んん!」
キスをされ、何も言い返せない。今日のキスはいままでの甘いキスとは違い、少し刺激的だった。
「はぁ……はぁ……んん……(変な感じ……、頭が真っ白で何も考えられない……)」
足に力が入らず、緑間にもたれかかる。
「夜はこれからだからな、覚悟しておくのだよ」
その後の2人がどうなったかは、また別のお話……。