ルルアノ・パトリエ 第12話

迷子の双子と別れた後、最初に口を開いたのはララクだった
「あの二人、大丈夫でしょうか……」
「あら、少し見ない間に随分とお姉さん顔じゃない?」
「そういうつもりではないのですが……」
お姉さん顔というのにアクセルはピンと来たのか、疑問を投げかけた
「そういえばラクア、何故あの双子はもう大丈夫だと言い切れるのだ? 根拠が知りたいところだ」
「あぁ……。そんなのは簡単なことよ。双子の姉の方は、明らかに私と考えが同じだった、というのが答えかしらね」
「同じ……? どういうことなのだよ」
ラクア以外が納得できる説明ではないといった様子で、皆が顔を困らせている
「姉の方の顔を見てすぐに分かったのよ。自分の両親を試すために、妹と一緒に適当な所へ行こうとしていたということがね。まぁ、予期せぬ事態としてはぐれてしまったのでしょうけど……。ただ、そうなったときの予防線として、迷子センターには行くな、ぐらいは伝えていたんじゃないかしら?」
「確かにみあちゃん、お姉ちゃんに迷子センターに行っちゃダメって言われているから嫌だって……」
「だが、何故親を試す必要がある?」
「そんなの、双子だからよ。ご両親のどちらかが妹に対してひどい言葉でもかけたのでしょう。だから、妹を傷つけるなら私も消えてやるっていう意思表示みたいなものよ」
さらりとそう言いのけるラクア。迷子の妹からは何一つ話を聞いてはいないというのにここまでドンピシャで当たるということは、最初にラクアが言った〝私と同じ″という言葉は嘘ではないことが分かる。
「どれも、妹の方から聞いた話と合致するのだよ」
「ならば、それが真意というわけか」
迷子の双子に関しての疑問が晴れたのを見計らい
「さてと、私の用事は終わったし……、皆とここでお別れね?」
そう言ってふんわりと笑みを浮かべ、デパート内へと姿を消そうとする
「おい、まだ何一つとして話は進んでいないぞ」
それを引き留めるアクセル。それに続くように
「私からも姉様に聞きたい事、たくさんあります!」
ララクも引き留めに入った。だが緑間がそんなララクに
「しかしララク。約束の時間を少し過ぎてはしまったが、無事迷子の問題は解決した。
 集合場所に急ぐ必要があるのだよ」
人を待たせているという事実を伝える
「ラクア、俺たちにとっての信頼とは
 〝相手の発言を疑わず、発された事柄については全て事実として受け入れる゛
 とは言ったが、それにはある程度有言実行してもらわないと困る。
 ……俺の言っている意味が分からないわけではあるまい」
「そうは言われても……ほら、ララクってば忙しそうだし?」
少し意地悪そうにしながらラクアがララクの方を見ると、ララクは困った顔をして
「真太郎さん、私はどうしたらいいでしょうか……?」
緑間に助けを求めるのだが、緑間が口を開くよりも先にアクセルがこう言い放った
「まぁ、どうせララクの用事が済まねばこちらも動けないのは事実か
 ならば俺たちも同伴させてもらおう」
「えぇぇぇ!?」
「本気か!?」
これにはララクだけでなく緑間も驚き、声を荒げた
「こらこらアクセル。仮にも魔王なのだから、
 そんな軽々しい発言をしてはいけないでしょう? 待ち合わせ相手もおそらく人間よ?」
「ここでどちらかに姿をくらまされて時間を
 無駄に浪費するより、よほどマシな選択だと思うがな」
アクセルは意見を変える気はないといった態度で緑間の方を見る
「急にそういわれて、はいそうですかと連れていけるわけがないのだよ!」
「わ、私もまだ貴方のことを信用しているわけではないですからね!?」
緑間とララクは抗議の声をあげるがアクセルは聞く耳を持たず
「グダグダ言わず、さっさと連れていけ」
高圧的な態度をやめることはなかった
「協力しましょって段階で問題を起こしていては世話がないわね……
 だからこそ魔王なんて地位についているのでしょうけど……
 こうなっては仕方ないわね。ララク、何かあったときは
 責任をもって私が止めに入るから、ここは私に免じて
 ついていくことを許してもらえないかしら?」
「姉様だけならいくらでも良いのですけど……こうなってしまった以上
 連れては行きますけど、絶対に変なことを言ったり
 威圧したりしないでくださいね!」
「話がまとまって何よりだ。では行こうか」
こうしてララクと緑間は、魔王アクセルと実の双子の姉ラクアを連れて
フードコートで待っている友達のもとへと向かうのだった……

「あ、来た来た。おーい、こっちだ……よ?」
緑間たちの姿を見つけ、フードコートで待っていた篠菜が分かるように手を振ると
何やら他に派手な服装の2人がプラスで歩いてくる姿を見て疑問符を浮かべた
「すみませんみなさん、お待たせしました」
篠菜の姿に気づいたララクたちは歩みをそちらに向け、合流を果たす
「いやいや。そこまで待っていないし、
 見たところ迷子の女の子がいないということは見つかったのかね?」
「はい、なんとか見つけることができました」
迷子の女の子が一件落着したことを聞くと
皆が安堵の表情を浮かべ、各々がよかったと口にした
「……それで、後ろにいる2人は?」
次はこれまたみんなが疑問に思っているララクと緑間の後ろにいる2人のことだ
「初めまして、かしら。高尾さんはお久しぶりね?」
「お、誰かと思えばラクアさんだったんすね、お久しぶりでっす!」
「高尾の知り合いで、ララクちゃんによく似た容姿ということは……」
「貴女様がララクのお姉様ですか!」
そう言うや否や篠菜はバッとラクアの前に立ち、胸に手を伸ばす
しかしその両手首はラクアにがっちりを掴まれ
「あらあら、初対面にしてはなかなか勇気のある子ね?
 でも、おイタはダメよ?」
セクハラ行為はあっさりと阻止されてしまった
「あ、あたしの秘儀、胸もみを事前察知し阻止する……だとっ!?」
「マジかっ!? 小さい頃からずっと見てきてはいるが、事前阻止は初めて見るぞ……!」
篠菜と隆二が信じられないという表情でラクアの方を見る
「ということは、ララクも餌食になった感じね?
 姉の私でも少し妬けちゃうぐらいあるから、好きにしてあげて頂戴な」
そんな二人の視線に答えるようにさらりとララクを売るのだった
「許可をいただいてしまった! ってことでララク! これから逃げることは許されない!」
「えぇぇ! そんなことってあるんですか!?」
唐突なとばっちりに猛反対をするララクを今にも襲いそうな篠菜
その横では朱夏が
「……いつもこんな感じで、すみません。……私は星丘朱夏。貴方は?」
「一向に構わん、俺はアクセルだ。関係性としてはそうだな……
 ラクアの旦那だと思っておいてくれればいい」
「……えっ」
アクセルからのとんでも発言に固まっていた
「おいお前たち、そろそろ昼食にするのだよ。そのあと買い物が待っているのだろう?」
「あぁそうだった……。いやはや、楽しい時間は
 すぐに過ぎてしまって名残惜しいものだね
 ま、ご飯をちゃちゃっと食べて、買い物行きますか!
 あっ、もちろんお二人方も付いてくるんですよね?」
「えぇ、お邪魔でなければそうさせてもらえると助かるわ」
「邪魔だなんて思ってないどころか大歓迎っすよ!
 また真ちゃんとララクちゃんのからかわれる姿が見れると思うと
 今から楽しみなんすから!」
「あら、高尾さんってばイケない子ね?」
「それはもう勘弁なのだよ……」
「恥ずかしいですからやめてください!」
和気あいあいとしながらフードコートで食事を取り、朝から隠されていた篠菜の
皆で買う共通のものが売っているというコーナーまで皆で向かうのだった

「……これは」
「嫌な予感はしていたが、こういうことだったか……」
「こ、これを買うのですか……?」
「いやぁ、女子ってたまに本当えげつない事思いつくよなぁ……」
「布地がほとんどないわね」
「下着売り場か?」
「いや、下着ではないのだよ……」
目的地に着くと絶句するもの、頭を抱えるもの、顔を赤らめるもの、呆れるものと
それぞれが表情を曇らせた
「夏といえば海! 海といえば水着! ってことで水着を買おうと思ったわけですよ!」
そんな中、篠菜は一人ご機嫌そうに水着を選び出す
「せめて女子だけで行けよな……男の俺たちなんか選ぶ余地ほとんどないし
 何より居心地がすごく悪い……」
「いやぁー、いくらノリはいい方だと自覚してるオレでもこれはちょっと恥ずいわ……」
「まったく、度が過ぎるのだよ」
男子組は居心地が悪そうに辺りを見ている。それもそのはずだ
周りはほとんどが女性ものばかりで、他の女性客だってちらほらいる
男子高校生のメンタルはこの羞恥に耐えられるほど出来上がってはいない
「顔を赤らめながらそんなセリフ言っても説得力ないぞー」
そこに追い打ちをかけるように篠菜の言葉が飛んでくる
「あのなぁ篠菜! いくらなんでもこれはやりすぎだって!」
「えぇー? そりゃまぁララクの水着姿を想像してワクワクドキドキするのは分かるけど 少なくともあたしのは平気でしょー? 今まで何回見てると思ってんのよ
 そんなに理性保つ自信がないならあたしのぺちゃぱいのことでも考えてれば?」
「なっ……! 何いって……っ!」
「なんでそこでもっと顔が赤くなんのよ……
 隆二、あんた病気なんじゃないの……」
篠菜は隆二の顔の赤さに軽く引きながら、気に入った水着を何着か手に持ち2人を誘う
「ほらほら! ララクも朱夏もせっかくなんだから着替えようよー
 みんなで着れば恥ずかしくないからさ?」
「……まぁ、私もワンピースならいいよ」
「わ、わ、私は無理です! 恥ずかしすぎます! そ、それに……!」
朱夏は渋々承知をしたが、ララクはチラリと緑間の方を見たかと思えば、ぶんぶんと首を横に振りその場に縮こまってしまう
「あら、そんなこと言わずに着てみなさいな。きっと白がよく似合うわよ?」
少し遠いところから声が届き、そちら側を見るといつの間にやら黒のビキニに着替えたラクアの姿があった
「ビューティフォー……」
「……すごく、グラマー」
「姉様!? なんて格好を……!」
布地などないと言わんばかりの際どいラインで、その姿を見てしまった男子組は
「……っ! や、やばい……直視できない……」
「エロすぎでしょ!? 鼻血が……!」
「み、みっともないのだよ!」
それぞれが顔を隠してしまった
「ふむ……似合っているが、流石に露出が多すぎるな
 もう少し隠れていた方がいろいろと都合がよさそうだ」
「アクセルが選んだからせっかくと思って着てあげたのに、えらく釣れないのね」
「「「(選んだ!?)」」」
まさかの事態に男子組は色々とオーバーヒート寸前
しかし女子組も選んだという事実には驚きを隠せなかった
「普段着ている衣装の露出部が少なすぎて
 こんなにも肌が見えると皆には少し刺激的過ぎたかしら?
 でも私程度でそんな風になってたら
 ララクの水着姿を見たらどうなってしまうのか……
 少し意地悪したくなっちゃうわ……?」
ニィッとラクアは口角をあげララクの肩をポンポンと叩く
「姉様? なんですか、その手に持っている水着は……」
「着替えて緑間さんに抱き着いてあげなさいな。とっても喜んでくれるわよ?」
「なっ! よ、止すのだよ!」
「抱き着きません! というか着替えません!」
「ダーメ。さぁ、お着替えの時間よ……?」
「や、やだぁぁ! 真太郎さん! 助けてぇぇ!」
ララクの抵抗も虚しく、ラクアの手によって試着室へと連れ去られてしまった
「ラクアさんって、あたし以上に鬼畜だと思うの」
「……絶対、敵に回しちゃいけないタイプ」
篠菜と朱夏はララクが連れられて行った試着室にそっとご愁傷様……
と唱え、自分たちも着替えるために姿を消した
「やばい、ララクちゃんが水着で出てきたら倒れる自信あるわ……」
「高尾、俺も多分ダメだ……。しかも緑間は抱き着かれるんだろ……?
 正直羨ましい以上に理性を保てる自信がないから
 されなくてよかったとしか言えない……」
「俺は常に人事を尽くしてきたのだ……だから絶対に耐えられるはずなのだよ……」
「あの程度の露出で滅入っていたら裸の時どうするというのだ……
 人間はよく分からんな」
アクセルはさほどと言った様子だが、男子たちはこれからやってくるであろうララクの姿に戦慄している。緑間に至っては自己暗示をかけ始めていた

「姉様……お願いですから、許してください……」
試着室の中ではラクアの手によって身ぐるみを剥がされたララクが
服を返してと必死に頼み込んでいた
「いいじゃない、減るものでもないんだし……
 それに緑間さんだって、きっと楽しみに貴女のことを待っているはずよ?」
「私が耐えられないです!」
「そんなにビキニ、ダメかしら?」
ラクアの言葉にコクコクと首を縦に振り、ラクアに訴える
「仕方ないわねぇ、それじゃあワンピースでどう?」
「ワンピース……ですか。うぅぅ……うー、ビキニを着るぐらいなら、そちらで……」
「交渉成立ね。それじゃぁつけてあげるから目を瞑ってなさいな」
「よろしくお願いします……」
ラクアの言葉を何一つ疑うことなく、ララクは素直に目を瞑る
そうして着けられた衣装は……

「はぁい、ララクが着替え終わりましたよー?」
カシャリと試着室のカーテンが開けられる
ララクはまだ目を開けていいと言われておらず、その音に驚いて目を開く
「ぐっ……!破壊力が、ちがっ……!」
何の音だ? と一番最初に見てしまった隆二は両膝を地面につき、鼻元を手で隠してしまう
「ちょっ! マジやばすぎだってっ!」
続いて高尾も即座に後ろを向いてララクを見ないようにしている
「………………」
「あら? 緑間さん……?」
緑間はララクの姿を見て硬直してしまっていた
「し……真太郎、さん?」
「放心状態だぞ」
「えぇっ!? ワンピースですよ!?」
「……? 何を言っているのだ、それはビキニだぞ」
「へっ…………!? ね、姉様! 騙しましたね!?」
自分の姿を確認したララクはラクアに騙されたことをようやく理解し
怒りを露わにする
「でもこれで、貴女の身体はとっても魅力的ということを証明できたわけだし
 これからはもっと誇りなさいね?」
「そういう問題じゃないです!」
「えー、何々? あたしも見るー」
隣の試着室がカシャリと音を立て、そこから篠菜と朱夏が出てくる
「あら、篠菜さんはセパレートで朱夏さんはワンピースなのね」
「ふぉおおお! ララク本当似合ってる!
 白のビキニがそんなに似合ってる人初めてだよ!」
「……本当に、グラマラス」
「もう……恥ずかしすぎて、穴があったら入りたいです……」
こうして篠菜が仕組んだとんでもない買い物は幕を閉じたのだった……。