愛の形 第1話

「さぁ海杏、こっちへおいで」

「お父さん、なぁに?」

海杏と呼ばれた小さな女の子は父に呼ばれ、誕生日ケーキを食べている手を止めた。

「ほら、誕生日プレゼント」

「わぁ……。ねぇ、早速開けてもいい?」

「もちろん」

父からの了承を得た海杏はプレゼントのリボンをほどく。そこに入っていたのは……

「これ……、モンスターボール!?」

「中にはちゃんとポケモンも入っているよ、出してごらん?」

「もう、あなたって人は。ポケモンのことになるとすぐそうやって……。まだご飯中でしょ?」

「あ……。お母さん、ごめんなさい」

父の言葉を聞いてモンスターボールからポケモンを出そうとしていた海杏は、母の言葉で手を止め謝る。

「ふふ、そんなに残念そうな顔をして……。海杏もお父さんに似て、ポケモンが好きなのね。今日は特別よ、お母さんに海杏のポケモン、見せて頂戴?」

「うん!出てきて、私のポケモン!」

父からもらったモンスターボールから出てきたポケモン、それは…………。

 

 

 

「……、ん……。懐かしい、夢」

カーテンが風に揺れ、窓から差し込む朝日に目を細めながら、布団からむくりと起き上がった女性、海杏。

彼女は一人で5年以上、この深い森の奥にある一軒家に住んでいる。

そんな海杏の寝室に、チリンチリンと涼しげな音が鳴り響く。

「おはよう、チリーン。今日もいい風が吹いているね」

「チリーン」

その音に誘われるように、外や別の部屋からバタバタとたくさんの足音が近づいてきた。

「はいはい、みんなおはよう。すぐご飯にするから、大人しく待っていてね?」

海杏はいつもより少し声を張り、他のポケモンたちに指示を出しながら身支度をする。

「チルチルーッ!」

「あら、チルタリス。今日はこのきのみが食べたいのね?」

「チルッ!」

開いている窓から顔を出したチルタリスは、海杏に朝一で取って来たきのみを渡す。

「ブリーのみなんて、なかなか珍しいのによく見つけてきたなぁ……。さ、チルタリスもリビングにいらっしゃい。チリーンもおいで」

そういって海杏がキッチンへ向かうと、呼ばれたポケモンだけでなく、あちこちからぞろぞろと他のポケモンたちもリビングに集まりだした。

海杏にとっては日常のことのようで特に気に留めることもなく、手際よく自分の朝食とポケモンたちの朝食を作っていく。

「ワタッコ!」

「ん?ワタッコ、何をしているの?」

料理を盛っているところでワタッコの声が聞こえ、海杏は手を止める。

「ランラン」

「ランプラーまで……。あぁ、ポロックが食べたいのね?それは食事の後のデザートだよ」

ポロックケースにワタッコとランプラーが近寄り、中身を取り出そうとしているのを見て優しく止め、料理をポケモンたちのもとへ運ぶ。

「レェェェン」

「シュィーン」

「はいはい。レントラーもウォッシュロトムもよく待てました。それじゃみんな、いただきまーす」

パチンと手を合わせる音を合図に、ポケモンたちが一斉に食事を始める。海杏もそれに合わせてご飯を食べ始めた。

 

 

 

「ふぅ、ごちそうさまでした。……さ、お待ちかねのポロックよ」

お腹がいっぱいといわんばかりにそれぞれゆったりしていたポケモンたちが、ポロックという言葉に目を輝かせ、早くくれと海杏の傍に集まる。

「ワタッコ!」

「デザートは別腹ってね。……はい、チルタリスにはあおいポロック。ワタッコはみどりポロックね」

「チルゥー」

それぞれ好みのポロックをポケモンたちに与え終えると、海杏は食事の後片づけを始めた。ポケモンたちは眠るもの、遊ぶものと好きなことをしている。

「さてと、それじゃ一日の楽しみ、ポロック作りをしましょう」

後片付けを終えた海杏はニコニコしながら、棚にしまってあるポロックキットを取り出し、机に置いた。

「シュィーン?」

「あら、今日はウォッシュロトムがお手伝いしてくれるの?ありがとうね」

「シュィィーン」

感謝されたことがうれしかったのかウォッシュロトムはご機嫌な様子で、きのみが保存されている棚に向かってジャンプを繰り返している。

「ふふ、棚からは私が出すから安心して。……今日は、そう、ね。すごいにじいろポロックに挑戦してみましょうか」

「シュィィ?」

ウォッシュロトムは頭にクエスチョンを浮かべ、首を傾げている。そんな傍らで海杏は手際よく必要なきのみを棚から取り出していく。

「ん……?オボンのみとモモンのみが残り少ないわ。それに今日の朝、チルタリスが持ってきたブリーのみも、どこにあったのか知りたいし……。ウォッシュロトム、明日はみんなで森へきのみを取りに行きましょうね」

そう言って必要なきのみを机上に並べ、ウォッシュロトムの頭をポンポンと撫でていると、それを見ていたレントラーが海杏の足元にすり寄る。

「みんな甘えん坊さんね。それじゃぁレントラー、色が被らないように4つ、好きなのを選んで」

「レェェン」

頼られたことを誇りに思っているのか一鳴きし、レントラーが机上のきのみを選んでいく。

「カゴのみ、ヒメリのみ、ラムのみ、オボンのみね。うん、これなら色も被っていないからにじいろポロックになるわ」

「シュイーン」

ウォッシュロトムはレントラーの選んだきのみを食べたそうにそわそわしている。

「食べちゃダメよ?このきのみたちはこうしてブレンダーの部分に入れて、ボタンを押すと……」

ポロックキットがガシャンガシャンと音を立てはじめ……

「シュィーン」

その様子が自分と同じように見えたのか、ウォッシュロトムも同じようにガシャガシャと動き出した。

「ぷっ……、ふふっ、あはは。ウォッシュロトムったらそんなことして。もう……面白い子ね。……なんて言ってる間に出来上がったみたい。どれどれ……?」

クスクスと笑いながらポロックの出来上がりを手に取る海杏。

「レェン?」

「……んー、残念。これは普通のにじいろポロックね。はぁ……、難しいわね。すごいのを作るのは」

何度も挑戦はしているもののいまだに作れた試しがなく、今日も出来なかったねとポケモンたちに微笑む。

「シュイィ……」

「さ、今日の残り時間は家事全般のことをして、明日に備えましょう。明日は森深くまで行くことになるかもしれないから、しっかり休むのよ?……まぁ、ここ自体が深部ではあるんだけど」

こうして海杏たちは今日一日をゆっくり過ごした。